小型トリオン兵一斉駆除作戦
「……害虫駆除?」
次の日。
夜遅くまでオンラインゲームをしていたお陰で、まだ眠い。
そんな中、忍田さんにたたき起こされた。
「迅が見つけたんだよ。イレギュラー門の原因を」
「! たった一日でですか!?」
この異常事態の件について、迅さんが対応していることは知っていた。
けれど、任された翌日に原因を見つけてしまうなんて……。
あの副作用もあってすぐに見つけられたのかな。
……私とは大違いだ。
同じ『視る』副作用だというのに、私と迅さんは見える”範囲”が違う。
私は現在を、迅さんは未来を。
……そんなの最初から分かっていたけれど。
「……分かりました。すぐ出動ですか?」
「いや、作戦は2時間後には開始される。今、鬼怒田さんが原因のトリオン兵を解析している」
「解析? トリオン兵? 原因はトリオン兵だったんですか?」
「ああ。私もまだ詳しい説明は受けていないから、聞きたいなら迅に聞くといい」
「……まぁ、聞くほどでもないですね」
でも、どうしても負けたくないって思っちゃうんだ。
現在のボーダー本部基地が創立される前からの付き合いだからなのか、兄さんと関わりがあったからなのか……それとも。
「……そんなわけない」
忍田さんが去って1人になった空間で、思いっきり首を横に振る。
ここ数年間、ずっと頭の片隅に存在して、ふとした時に頭の中をいっぱいにさせる。
そのきっかけは、必ず迅さんが絡んでいる。
前に柚宇に名前を伏せて相談したんだけど……。
『それはどう考えても答えは1つしかないね。名前はその人のことが”好き”なんだよ』
柚宇に言われた言葉。
考えなくても意味なんて分かる。
私が迅さんを好き?
そんなわけがない。私はずっと嫉妬してたんだ。
あの人の実力に、副作用に……兄さんに気に入られていた事に。
そんな相手のことを好きになるなんてあり得ないんだ。
あの時……お母さんから私を守ってくれた迅さんがかっこいいと思ったのだって、きっとホラーとかでよく聞く吊り橋効果みたいなものだ。
だから気のせいなんだ……迅さんにドキドキするなんてことは。
「……兄さん、出動だよ」
いつもの位置に兄さん……ブラックトリガーを着ける。
トリガーを起動し、換装する。
「よし」
換装体になっていることを確認し、部屋を出る。
廊下を歩き、ボーダー隊員がチラホラと見え始めた。
そう思っていると、廊下に設置されているモニターに根付さんが映っている事に気づく。
『市街地に開く門の原因が判明しました。この小型近界民がそうです。ただ今より、ボーダーによる一斉駆除を行います。発見された方はボーダーまでご一報を』
根付さんが持っている写真。
あれが、イレギュラー門の原因である近界民。
一体どんな原理で開いていたんだろう。
「いたいた、名前」
「忍田さん」
後ろから私を呼ぶ声。
そこには急ぎ足でこちらに向かってくる忍田さんが。
「名前に担当してほしい区域があるんだ。すぐに出動してくれ」
「分かりました」
相当忙しいんだろう。
まあイレギュラー門が見つかって、すぐに対応しないといけないもんね。
指示はすべて忍田さんから伝えられるから、1秒たりとも無駄にできない人なのだ。
私は忍田さんの指示通り、すぐにボーダー本部を出た。
その後沢村さんからナビゲーションして貰い、担当区域まで誘導して貰った。
『今苗字さんが立っている場所の近くに反応があるけれど、小さいから隙間や物陰に隠れている可能性があるわ』
「なるほど。だったら私の副作用の出番ですね」
私の副作用に”物陰に隠れる”というものは効かない。
何故なら私の副作用は半径500m範囲内全てを見透す。
「……いた、そこ!」
近くの建物へアステロイドを放つ。
……手応えあり。
『1つ反応消滅を確認。あと20体いるわね』
「私の視界の範囲内にいますね。全部処理します」
『お願いね』
沢村さんから伝えられた数討伐した後、別の区域に移動しまた討伐し……それを繰り返すうちに時間はあっという間に過ぎ、夕方。
『よ〜し、作戦終了だ! みんなよくやってくれた、お疲れさん!』
「ふぅ……終わった」
近くに設置された椅子に座り、目を休める。
こんなに長い時間副作用を使い続けたことがなかったから疲労が……。
空を仰ぎながら目を休めていると、頬に当たる温もり。
ビクッと反応して、慌てて横を振り向く。
「お疲れ、名前ちゃん。はい、ココア」
横にいたのは、ホットココアを手に持っていた迅さんだった。
2022/2/11
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