その背中が重なった
私が嵐山隊を脱退し、再びS級隊員として活動する事になった事は、瞬く間にボーダー中に広がった。
「……」
一人の防衛任務がこんなにも寂しいなんて感じたのは初めてだ。いつも一人だったから、嵐山隊に入ってからは何かと一緒に行動してくれたから、尚更。
だけど、これ以上嵐山隊に迷惑を掛けるわけにはいかない。ボーダーにだって。
折角許可を貰ってくれた根付さんにも悪い事をしてしまった。
「今日も特になしっと……」
防衛任務を終え、部屋に戻ろうと廊下を歩いていたときだ。
「お、いたいた。名前、少し良いか?」
「忍田さん?いいけど……何?」
「お前に紹介したい人がいるんだ」
紹介したい人?
忍田さんの言葉に首を傾げながらも、その背中を追う。
「ねぇ、誰なの?紹介したい人って」
「3人目のS級隊員だ」
「!」
忍田さんの言葉に目が見開いていく。
ブラックトリガーがまだ会った事にもだけど、それよりも……私と迅さん、そしてもう一人S級隊員が増えることに何よりも驚いた。
「待たせたね、天羽」
部屋に入ると、そこには白いパーカーを着た男の子がいた。
この子が、3人目のブラックトリガー使い……。
「忍田さん。その人が……」
「ああ。名前、自己紹介を」
「うん」
忍田さんにそう言われ、私は1歩前に出た。
目の前にいる少年に目線を移し、口を開いた。
「私は苗字名前。一応、一番最初にS級隊員になった人……です」
「……天羽、月彦」
名前を名乗ると、向こうも名乗り返してくれた。
……天羽君のような大人しいタイプは初めてかも知れない。私の周りには結構元気な子が多いし、それに個性が強い人ばかりだし……。
「……強そうな色だ」
「色?」
「天羽の副作用だ」
ジーッと私を見つめていた天羽君がふと、そう言った。
何の事か分からず首を傾げていたが、忍田さんによると天羽君は副作用を持っているらしい。
その副作用は、相手の強さを色で識別するというもの。と言う事は私、天羽君にとって強い存在って認められたのかな……?
「でも、ブラックトリガーが一番強そうだ」
天羽君はそう言って私の左耳……ブラックトリガーを指指した。
まさか、ブラックトリガーも識別できるなんて……!
「それはそうだな。なんたって、そのブラックトリガーを作ったのは元最強のボーダー隊員だったからな」
忍田さんの言葉に笑みが零れる。
……兄さん。やっぱり兄さんはブラックトリガーになっても強い存在なんだね。
「でも何だろう……そのブラックトリガー、まるで生きているみたいだ」
「!?」
天羽君の零した発言に一気に現実に戻される。
……まさか、兄さんの存在に気づかれた?
そっと忍田さんを見ると、向こうも驚いている様子だった。そして、考え込んでいる気がする。
天羽君は読めない表情で私を見上げている。
「……名前のブラックトリガーは少し特殊なんだ。だから、天羽にはそう感じたのかも知れない」
「そうなんだ」
天羽君は深く聞くつもりはないようで、あっさり引いた。
「ねぇ、天羽君はどんなブラックトリガーを使うの?良かったら教えてくれないかな」
私がそう提案をすると、天羽君はこくり、と頷いてくれた。
***
話していくうちに段々とわき上がってくる感情がある。
なんかこの子、すごく守ってあげたくなるんだもん……!
お互いに名前で呼び合うようにしたので、きっと仲良くなれると思う。
因みに忍田さんはいつの間にかいなくなっていた。仕事かな。
「……あ、そろそろいかなきゃ」
「どこに?」
「防衛任務。夜にも入れてるんだ」
私はボーダーに住んでいる隊員だ。なので、他の隊員より多めにシフトを入れている。
まあ、ずっと部屋にいても暇だし、模擬戦も相手がいないと意味が無いから、防衛任務を沢山入れているんだけどね。
「そっか……」
寂しそうな声が聞こえる。
目の前にいる天羽君……じゃなかった。月彦がしゅん、としているのがちょっと可愛い。
「私、本部に澄んでいるの。だから、ここに来てくれれば高確率でいるよ」
「……本当?」
「うん。あ、そうだ。……私の部屋、教えておくね」
先程交換した連絡アプリの個人チャットに自分の部屋番号を送る。
月彦はそれを見た後、顔を上げた。
「……ありがとう。暇な時、名前さんの部屋に行く」
「うん!待ってるよ」
……何だろう。表情は変わんないのに、ぱあああっと背後が光ってそうな雰囲気だ。
そんな月彦に苦笑いしながら、私はノーマルトリガーを手に取った。
「トリガー、オン!」
その場でトリガーを起動し、トリオン体へ換装する。
「……さっきと雰囲気違うね」
月彦がそういうのも納得いく。
だって、生身の時と髪型を変えているんだから。
今までは生身の時と同じ髪型だったけど、少し前に変えたのだ。……兄さんに似た髪型に。
「……変、かな」
「ううん、似合ってる」
月彦の言葉に嬉しくなる。
兄さんの髪型に寄せたのは、私なりの覚悟のつもりだった。それを認められた気がしたんだ。
「頑張ってね」
「ありがとう。じゃあまた話そうね、月彦」
小さく手を振る月彦にこちらも手を振り返す。
そして、防衛任務へと向かった。
その背中が重なった END
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2021/07/23
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