その背中が重なった



「本当に良かったの?」

「……嵐山隊にはお世話になりました。あの隊の笑顔を……私は壊したくない」


数時間後
私は正式に嵐山隊を脱退した。

皆、私を引き留めようとしてくれたが、私の意思が固いことを伝えると、渋々といった様子で了承してくれた。

嵐山隊に入ったお陰で私はチームワークとは何かを学ぶ事ができた。本当にお世話になったから、とても寂しい。
でもこれは、私が決めたことだ。今更戻れない。


___で、現在。
何故か迅さんが私の部屋にいる。なーんか着いてきたんだよねぇ……。


「嵐山はそんなこと気にしないと思うけどね〜」

「私が気にするんです!!……もし私が嵐山さんの厚意を断っていたら……ううん、そもそも嵐山さんがあの場にいなかったら……私、ここにいなかったでしょうから」

「……ま、名前ちゃん自身が決めた事なら、何もいえないな」


ぼんち揚げ食う?
そう言って迅さんはぼんち揚げが入った袋を差し出した。そこから1つだけ取り、一口囓った。


「……あの、少し聞いてもいいですか」

「ん?何?」

「どうして私に必要以上に関わるんですか」

「理由がないとダメ?」


澄んだ水色の瞳と視線がぶつかる。その瞬間、何故か目を逸らしてしまった。
……何でだろう、直視できない。


「……いえ、言いたくないならいいです。どうせ、碌でもない理由でしょうし」

「流石にそれは酷くない!?」


私の発現にそう返した迅さんに、クスッと笑みが零れた。……あれ?
今私……笑ったの?この人の前で?

いつもなら『嫌い』な感情で一杯になるのに……今の私、何とも思ってない。寧ろ……この状況を『楽しい』と思ってる。


「……!」


ほら、目の前にいる迅さんも驚いた目で私を見てるじゃないか。


「どうしたの、名前ちゃん。おれに笑いかけたことなんて一度もなかったじゃん」

「き、気のせいです!!見間違いです!!貴方の目がおかしいんです!!!」

「あははっ、それでこそ名前ちゃんだ!」


ケラケラと笑う迅さんを全力で睨み付ける。それに気づいた迅さんは、痛くもかゆくもないといった顔でこちらを見詰め替えしてきた。

……何でだろう、顔が熱い。それに、心臓がうるさい。


『それは出来ないよ』

『よく頑張った、名前ちゃん』


先程の出来事を思い出した瞬間、心臓が跳ねた。


『大丈夫、おれに任せて』

『お疲れ様、名前ちゃん』


あの時の背中が兄さんのように見えたのは……絶対に気のせいだ。
まさか、ありえない。
私、私___


「……で、でも。さっきの言葉は本心ですから」

「さっきのって?」

「っ、言わせるなんて……!!」

「あははっ、言わなくても分かってるから。そんなに怒らないでよ」


迅さんに……ドキドキしているの……?





2021/07/23


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