ボーダーの顔になる



初の団体ランク戦に参加してから数ヶ月が経過した。
特別な許可を貰い、S級でありながら嵐山隊に所属している私は、ボーダーの広告の仕事をしつつもランク戦に参加していた。
その活躍を見てくれた色んな人から、いつしか私は嵐山隊のエースと呼ばれるようになっていた。

B級には上位、中位、下位があるらしく、初め嵐山隊は中位ほどにいたようだが、今では上位にはいるほどの実力を認められている。


「そろそろか。A級昇格の試験は」

「うっはーーーっ!緊張するーー!!」


今日も広告の仕事を終え、嵐山隊全員で帰路を歩いていた。

本日の仕事内容は雑誌の撮影だ。まずは嵐山隊全員の集合写真。次に個人、それぞれペアで撮影したりと……まあ、雑誌関係にしてはちょっと撮影多過ぎでは?と思ったけど黙っておくことにした。

今や嵐山隊はある意味アイドルのような扱いだ。それはボーダー内でも同じ。前の私は、まさか自分が所属することになった部隊が、こんな扱いされるなるなんて思いもしなかっただろうなぁ……。


「ここまでこれたのも、苗字先輩の活躍のお陰ですね!」

「そんな……嵐山隊全員の力だよ」

「でも苗字先輩がいたお陰で作戦を練りやすかったのは事実です」

「う、うーん……そうなのかなぁ……?」


時枝君の言葉に首を傾げながら、今までの事を振り返った。
私は嵐山さんと時枝君のような中距離アタッカーではなく、超がついていても可笑しくない程の接近型アタッカーだ。陽動は得意だし、副作用サイドエフェクトと綾辻ちゃん……じゃなかった。遥ちゃんのオペレートのコンビネーションで不意打ちを狙うこともできた。嵐山隊に大きく貢献している自信はある。


「正直、苗字に頼りきりなところはあったな……。すまない」

「謝らないで下さい!私だって感謝してます。嵐山隊に入隊したおかげで連携の大事さと協調性を学ぶ事ができたんですから」

「そうか。それならよかった」


改めてこんな話をするのは少し恥ずかしい。
けれど、これからも共に過ごすチームメンバーでもあるのだ。お互いをさらけ出すのも良いかもしれない。


「私はボーダー基地だから……ここで」

「送っていこう。夕方とはいえ、一人で帰るのは危険だ」

「そんな、大丈夫ですよ。何かあればトリオン体になればいいですし。私なんかより、遙ちゃんを送ってあげて下さい」

「綾辻先輩はおれ達が送りますから大丈夫ですよ」

「そうそう!だから苗字先輩は嵐山さんに送られてください!」


時枝君と佐鳥君の言葉に、二人がそういうなら……と頷いた。


「嵐山さん、名前先輩!また明日!」

「それでは」

「また〜!」


それぞれ個性のある別れの挨拶を聞いた後、私と嵐山さんはボーダー基地へと歩き出した。


「どうだ?もうそろそろ隊には慣れてくれたか?」

「え?あ、はい!勿論……!」


嵐山隊に入隊して半年ほど経ったが、嵐山さんのかっこよさには中々慣れない。だって兄さんとはまた違ったかっこよさがあるんだもん……。迅さんも見習ってほしいよ、髪型似てる人として。

私は嵐山隊でエースという位置づけになっているらしく、隊長の嵐山さんとよくペアで写真撮影を行うことが多い。……というより、記者がよく指定してくるんだよね。

嵐山隊にはファンがいるらしく、ボーダー内でもよく黄色い声が聞こえてくる。ちなみに私は嵐山さんのファンではない。だって同じ隊なのに、ファンって意味分からないじゃない……。


「さっき綾辻や充が言ってた様に、A級目前までこれたのは苗字のお陰だと思っている。今度はお礼を言わせてくれ……ありがとう」

「こ、こちらこそ……」


私だって感謝している。いや、しきれないくらい感謝している。
偶然にも私が忍田さんに隊について話していたことを覚えていてくれたこと。そのお陰で私はランク戦に参加するという夢が叶ったのだ。
だから、その恩返しとして嵐山隊に貢献する。この隊をA級まで導くんだ。


「なんだか、改まってこんな話をするのは……少し恥ずかしいです」

「そうか?俺は何とも思わないが……」

「あれ、私だけですかね……?」


さっきも感じたこの少しの恥ずかしさ。
まるで、家族と真剣な話をしているような___


「すみません。そこの御方、お尋ねしたいことがあるのですが……」


後ろから聞こえた声。
どうやら私達に向けられたもののようだ。


「はい!どうされましたか?」


嵐山さんは爽やかな笑顔を向け、後ろにいる人物の声に返事をした。
遅れて私も後ろを振り返り、背後に立つ人物を視界に入れる。

そこにいたのは女性だった。顔は帽子の鍔で隠れていて確認できない。しかし、その帽子と服装からみて、お金持ちの人だと思う。なんか高級感がある。


「実はとある人物を探していまして……どうやらその人物は”ボーダー”という組織にいるみたいなんです」


どうやら女性は人を探しているらしい。
それも、ボーダーの人間だ。……少し怪しいと思ったのは、気のせいだろうか。


「そうなんですか!では、その方の特徴を教えていただけますか?」


嵐山さんは特に疑うことなく、女性が探している人物の特徴を尋ねていた。


「そうね……髪の色は私と同じ薄い金色、瞳はちょっと暗い赤色……所謂、緋色ってところね」


女性は探している人物の特徴をあげながら、こちらに近付いてくる・・・・・・・・・・
その光景を見ていたとき、無意識に自分が後退していたことに気がつく。

……あれ、なんだろう。この声、雰囲気……私、知ってる・・・・


「ねぇ___名前」

「!!!」


自分の名が女性から告げられた瞬間、声が出てこなかった。
ゆっくりとした動作で帽子を取った女性の顔が露わになる。……目の前の女性の顔は___



「会いたかったわぁ……私の”お人形さん”」


私の容姿に似た顔つきだったのだから。
それもそうだ。だってこの女性は……。


「な、んで……ここに___お母さん……!」


私という存在を生みだした存在……母親なのだから。
目の前にいるお母さんは、綺麗でありどこか怪しげな笑みを浮べながら私を見つめていた。





2021/07/22


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