ボーダーの顔になる
S級隊員である私は、特例で嵐山隊に入隊する事になった。しかしその入隊は他の隊とは違い、広告部隊としてテレビに出演しなきゃいけないし、兄さんみたいに写真を撮られたりもするだろう。うぅ、私の容姿を買ってくれたのは嬉しいけど、大丈夫かなぁ……。
「えっと、ここであってるかな……」
嵐山隊に入ることになったので挨拶にでも、と思い隊室の前に来たが中々あと一歩が踏み出させない。急に決まった事だし、嵐山隊の皆さんに伝わってないかも……。
色々考え込んでしまい、戸惑っていた時だった。
「何かご用ですか?」
「えっ!? あ、えっと……」
私の横には男の人がいた。そして声を掛けられた。……隣にいたことに気がつかなかった!!私今すっごい失礼な事してしまった!!
「あ、S級の苗字先輩ですよね。おれは嵐山隊の『時枝充』と言います」
「えっと、苗字名前です。あの、実は……」
時枝充、と名乗った男の子に先程自分が特例で嵐山隊に入隊したことを伝えた。すると、眠たそうな瞳を少し見開いて私を見た。
「承諾してくれたんですね」
「え?承諾?どういう……?」
「実は苗字先輩を推薦したのは、おれ達嵐山隊なんです」
「とりあえず中へどうぞ」とエスコートしてくれた時枝君。し、紳士的……!
しかし、嵐山隊の皆さんが私を推薦したっていうのは言葉通りの意味なのだろうか……?
「お、充!戻ってきたか……って、苗字じゃないか!」
「こんにちは嵐山さん」
「え!?苗字先輩?!」
「あ、佐鳥君!嵐山隊の人だったんだね」
どうやら隊室に全員いるらしい。
嵐山隊はその名の通り嵐山さんが隊長の部隊だ。佐鳥君は前に公平と狙撃手の訓練室で知り合った。そして今さっき時枝君と自己紹介を交わして……と。じゃあ今この場で名前を知らず顔を初めて見たのは、オペレーターの可愛らしい女の子だろう。…なんでオペレーターだと分かったのかって?柚宇と同じ服着てたからそうかなって思っただけ。
「初めまして!嵐山隊のオペレーター『綾辻遙』です。よろしくお願いします、苗字先輩!」
「は、初めまして。よろしくお願いします、綾辻さん」
「綾辻で大丈夫ですよ!」
何でも出来そうな美人……綾辻さんに対する初めの印象である。
「それで……さっき時枝君から私を隊に推薦したって聞いたんですけど……」
「あぁ、そのことか!」
綾辻さんと時枝君の間に座らせてもらい、この隊に推薦された理由を聞く。
尋ねると、嵐山さんがその質問に答えてくれた。
「前に忍田本部長に部隊について話していただろう?それを思い出してどうかなって推薦したんだ」
「でも私、自分で言うのは何ですがS級隊員ですよ?推薦以前の話になりませんか?」
「そうだな……。元々俺達の隊は戦闘員4人オペレーター1人の5人だったんだが、つい最近1人脱退してな……。そこで空いた穴をどうしようかって時に根付さんが苗字を広告部隊に入れられないかって話を偶然聞いたんだ」
「それで、嵐山先輩が前に苗字先輩が隊に入りたいって言ってたってのを聞いて、その話を実現させましょ!ってなったのが始まりです!」
なんと。嵐山さんは根付さんの会話内容を偶然聞いていて、前に私が忍田さんに隊に入りたい組みたいの話を覚えていたのだ。なんて良い人なんだ。どこぞのそっくりさんには見習って貰いたい、この爽やかさと優しさを。
「戦闘面ではお役に立てると思いますが、連携とか取れるか不安で……」
「そのためのオペレーターです!サポートはお任せ下さい!」
綾辻さんの笑顔が眩しい……!!歳下なのに頼もしい……!何か悔しくなってきた。
「じゃあ……改めて、よろしくお願いします」
そう言うと嵐山隊の皆さんから拍手を送られた。自分がその中心である事に照れてしまう。
「そうだ!苗字先輩歓迎会として今から食堂でぱぱーっとやりましょ!!」
「いいな!じゃあ早速行くか!!」
佐鳥君の提案で、今から食堂で私の歓迎会をやるそうだ。……何だか思っていた以上に嬉しい。
立ち位置的には私はアタッカーに入るだろう。しかしアタッカーと言っても私は兄さんのサポートをしてばかりいたのでアタッカーというよりサポーターの方がしっくりくるかもしれない。
兄さんのサポートをしていた、と文だけでは普通に見えるかもしれないけど、あの兄さんのサポートを任されていたのだ。……あの戦闘狂だった兄さんの、だ。普通のサポーターと比べないで欲しい。だって兄さんの攻撃は慣れていない人だったら巻き込まれちゃうもの。
だけど私には兄さん以上の戦闘狂を見た事がない。まあ太刀川さんも戦闘バカだから言い方を変えれば戦闘狂になるかもしれない。でも私の中では戦闘狂>戦闘バカだから、太刀川さんはまだ可愛い方である。
何となくだけど、この部隊は私にとって初めてを教えてくれる気がする。兄さんとは違う楽しさを教えてくれる、ね。
2021/03/04
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