ボーダーの顔になる
迅さんと勝負をした日から暫く経った頃。
どうやら兄さんがやらかしたらしく、上層部の方と迅さんに兄さんの存在がバレてしまったそうだ。しかし流石は兄さん、上層部の方達からは好印象を勝ち取ったようだ。何で私はコミュ力の塊じゃなかったんだろう……。
あの勝負の後、迅さんにはしつこく質問されたなぁ……。面倒くさかった。思い出しただけでも嫌な気分になる。
「名前、ちょっといいか」
「? どうしたんですか、忍田さん」
ボーダー本部にある自室でゆっくりしていた時、ノック音が聞こえたと思えば忍田さんが部屋に入ってきた。
「根付さんがお前を呼んでいる」
「? ……分かりました」
私何かしたかなぁ……。でも、こういうのって大体忍田さんから言われるし、そもそも根付さんとはあまり関わりがない。
忍田さんの背中に着いて行きながら、呼ばれた理由を考える。
「失礼します、苗字です」
結局何故呼ばれたのか思い浮かばず、根付さんの所に着いてしまった。
目の前にいる根付さんの顔色を窺うが、特に怒っている様子はない。……ポーカーフェイスが上手いのか、それとも怒られる内容ではないのか……。
「そんなに顔を引きつらないで下さい。貴女を呼んだのはあるお願いをしようと思って」
「お願い?」
隣にいる忍田さんがジト目で私を見ていた。……きっと私の心情を分かっていたのだろう。
「はい。……苗字隊員、嵐山隊に入隊しませんか?」
「……はい?
聞き返してしまった私は間違っていないと思う。
「えっと……すみません。もう一回言って貰えませんか」
「はい。君に嵐山隊に入って欲しいんです。城戸司令と忍田本部長には許可を貰ってますので、後は苗字隊員の返事のみです」
どうやら空耳ではなかったらしい。根付さんの前で一回自分の手の甲を引っ張ってみるとちゃんと痛かったので現実で間違いないらしい。
「でも、S級隊員の私は…ブラックトリガー使いの私は隊に入ることも作る事もできないと言われましたが……」
「ブラックトリガーを使わなければいいだけの話です」
「そう、ですか。でも……どうして嵐山隊に?」
ブラックトリガーを使わなければ隊に入っても良い。それは理解出来た。だけど何故嵐山隊に入れと言われているのか。
ボーダーの隊員は年々増えている。それと同時に部隊も増えてきた。隊に入れってといわれるのなら嵐山隊に限定する必要はない。
「……その様子だと、嵐山隊がボーダーにとってどのような存在なのか知らないようですね」
「え?」
「嵐山隊はメディア向けの広告部隊なんです」
「……め、メディア?」
どうやら嵐山隊は『ボーダーの顔』としてCMやテレビに出演している所謂『広告部隊』らしい。し、知らなかった……。
で、何故私をその広告部隊に入れたいのかっていうと、どうやらつい最近嵐山隊に入っていた人が脱退したらしく、枠が一人空いているらしい。それに加え、女性戦闘員がいないそうなので、この機会に私に特別に入って欲しいそうだ。
「女性隊員なら他にもいますよ?どうして私なんですか?」
「まあ言ってしまえば、君の容姿です」
「よう、し?」
私の顔を買って、って事……?
「ま、待って下さいっ。自分の顔がテレビに出ても笑われない様な顔だとは思いません!兄さんは綺麗で背も高くて、テレビに出ててもおかしくない人でしたが……その妹である私はそこまで……」
「始まった……」
隣で忍田さんが呆れる声が聞こえた。
「それに……私なんかより綺麗な人は探せばいるはずです」
「うーん、困りましたねぇ……」
「……名前」
忍田さんが私の耳元に顔を近付け、ヒソヒソと話し始めた。
「確かに前にお前はランク戦はできない部隊を組む事も入る事もできないと言った。……だが、この件を呑めば許可しよう」
「ほんと!?」
「ああ」
「ただし、個人ランク戦はダメだ。ま、最近はいろんな隊員と模擬戦をしているみたいだし、言う必要はなかったかな」
「じゃあ……その件、引き受けます!」
「おぉ!本当ですか!ありがとうございます」
嵐山隊入隊の件を了承すると、根付さんはとても嬉しそうにしていた。……本当に私にやって貰いたかったんだな。
「本当に私で大丈夫なんですか?」
「はい。活動内容については実際に嵐山隊の皆さんに聞いて下さい」
「では、これからよろしくお願いしますね。苗字隊員」と根付さんに言われ、会話が終了した。
2021/03/04
prev next
戻る