強さ比べ

side.緋色



「あっ、名前さん!お疲れさまっす!」

「出水君。お疲れさま」


今日は出水君に射手シューターについて教えて貰う日だ。事前に待ち合わせしていた場所へ時間前に行こうと思って来たのだが、すでに出水君が先に着いていた。きっと良い彼氏になると思う。

出水君はなんと、私が前に泣く泣く断るしかなかった『太刀川隊』に入ったのだ。それに、彼はボーダーの中でも上位にはいる程のトリオン量を誇っているらしく、部隊にかなり貢献しているようだ。偶にランク戦見に行ってるから彼の活躍は知っているつもりだ。

ちょこちょこと会ってはいたのだが、こうして教えて貰う程の時間がとれなかった。まあ受験勉強とか、私の場合は何ヶ月に一回ブラックトリガーの性能を確認するテストがあるため、意外と他の隊員より暇がなかったりする。防衛任務も兼ねてるしね。


「んもう、先輩ったらいつになったら名前で呼んでくれるんすか?」

「最近の子はそんなに名前で呼ばれたいのか……」

「先輩限定っすよ」


なんか語尾にハートが着いてそうな勢いだな……。


「そ、そう……。公平君。これでいい?」

「呼び捨てがいいっす!」

「わかったよ、公平」


別に名前で呼ぶ事に抵抗はないので、名前で呼ぶことに。これで二人目かな、男の子の後輩を名前で呼んでいるのは。


「あれ?あんな部屋あったっけ?」

「あ。あれは狙撃手スナイパー用の訓練室っすね」

狙撃手スナイパー?」


……そんな目で見ないでよ。だって知らないんだもん。


「まあ何となくこの流れだろうな、とは思ってましたけど……」

「誰も教えてくれなくて……」

「それ、忍田さんの所為にしてるって太刀川さんに聞きました」


太刀川さん、私との会話他の人に話してるな……。まあ恥ずかしい事じゃなければ別にいいけど。


「覗きに行ってみます?」

「行って良いの?」

「見るだけなら大丈夫っすよ」

「じゃあ、見てみようかな」

「了解っす!」


公平は私の手をとって狙撃手スナイパーの訓練室へと歩く。


「わぁ、広い……!」


目の前に広がった光景に始め思った事が、とにかく広いっていう事だ。
広い場所は好きだ。思いっきりやっても誰も怒らないからね!……あ、私は壊しまくっているわけじゃないからね?どこぞの誰かさんみたいに!


「! すごい、あんな遠い位置から真ん中を当てるなんて」


私の目に入ったのは、サラサラとした薄い茶色の髪の男の子が、的の中心を撃ち抜いた所だった。ダメだ、柚宇の影響で完全にゲームの武器にしか見えなくなってきた。謎に部位の知識も増えてしまってるし……。
でも、私だったら副作用サイドエフェクトで遠くの人は認識できるし……まあ限度はあるけど。


「あ、佐鳥だ!おーい!」

「ん?あれ、出水先輩じゃないですか〜。珍しいですね、こんな所にいるなんて」

「いや、先輩がここ知らないって言うから連れてきたんだよ。見学見学!」

「先輩?」


公平と仲良く話している男の子が私を視界に捉える。


「苗字名前さんだよ」

「え、えぇ〜?!あのS級の!?」


S級隊員は私しかいないって聞いてたから、結構認知されてるのかな……。


「えっと、S級やらせて貰ってます。苗字名前です」

「おれ、『佐鳥賢』っていいます!よろしくお願いします、苗字先輩!」

「あ、そいつ女たらしなんで危ないっすよ。先輩こっちこっち」

「出水先輩!?」


どうやら彼も狙撃手スナイパーらしく、佐鳥賢君というようだ。そんな雑に扱わなくても……。
しかしさっきの子がすごく気になる。一番に目に入ったからっていうのもあるかも知れないけど。


「あ、奈良坂先輩が気になるんですか?」

「う、うん。ここに入ってきて一番に目に入ったから」

「おれ、呼んで来ますよ!」


佐鳥は私の返事を聞かずにその奈良坂って人の元へ行ってしまった。いや、私話したいって言ってない……。


「先輩ったら、おれと一緒にいるのに他の人に…しかも男に興味もっちゃうなんて、悪い人」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「柚宇さんから聞きましたよ?先輩イタズラ好きなんですって?これも、イタズラの1つなんですか?」

「ち、違うよ!純粋に気になっただけで!!」

「あっはは!そんなの分かってますって!」


公平の方がイタズラ好きっていうか、意地悪な気がする……。お腹を抱えて笑っている公平をじとーっと見つめていると、涙を溜めた黄色い瞳と視線が合う。


「……? 何?」

「いーや?また先輩の新たな一面を知れて嬉しいなーって」

「私は少し恥ずかしかったんだけど……」


公平と話していると、誰かが近づいて来た。見上げるとそこには佐鳥君が。


「苗字先輩、奈良坂先輩もう少ししたら来ますよ!」

「そっか。なんかごめんね、自分で行かないといけないのに佐鳥君に任せちゃって」

「大丈夫ですって!」


良い子だ……!佐鳥君の笑顔にときめいていると、横から誰かが腕をつついてきた。まあ横にいるのは公平しかいないんだけど。


「こいつ、印象良くしようとしてるだけっすよ先輩」

「出水先輩、何か今日当たり強くないですか?!」


公平と佐鳥君の会話を苦笑いで聞いていると、遠くから誰かこちらへ歩いて来ていた。そこにはさっきの狙撃手スナイパーさんが。


「あ、奈良坂先輩来た! ほらほら、おれ達は邪魔だからあっちにいきましょ、出水先輩っ」

「あっ、おい佐鳥!!」


公平は佐鳥君に引っ張られてどこかへ行ってしまった。……え、初対面の人と二人っきりにさせちゃうの?!私人見知りなんだってばぁ……!!それに元々話す気はなかったんだけど!?


「俺と話がしたいって言われたんですけど……」

「あ、はい。えっと私、です……」


遠くからだとどんな顔なのか分からなかったけど、なんか頭良さそうなイメージ……。


「ごめんなさい、訓練の途中だったのに」

「いえ、丁度切り上げようと思っていた所なので、大丈夫ですよ」


や、優しい……!嵐山さんと違った別のイケメンだ……!しかも大人っぽい!


「私は苗字名前です」

「俺は『奈良坂透』です。三輪と同い年なので敬語は大丈夫です」


まさかの歳下。なんか悔しくなってきた……私の方が歳上なのに……。


「秀次と知り合いなんだね。同じ学校なの?」

「いえ、あいつの隊に入ってるので」

「そ、そうなんだ……」


しょっちゅうランク戦を見ているわけじゃないし、本部に住んでるものあって防衛任務のシフトをかなり入れられてるから、秀次が自分の隊を作っているなんて知らなかった……。あの子、自分の事そんなに話さないからなぁ……。


「先輩は狙撃手スナイパーの事、知らないんですね」

「うん。ランク戦は時間が取れたときに見てたんだけど、きっとその狙撃手スナイパーがいない所同士の試合を見てたんだと思う……」


なんて運が悪いんだろう、私……。あと普通に恥ずかしい。


「だから、さっき公平に……出水君に連れてきて貰ったんだ。それで、一番に目に入ったのが奈良坂君だったの。すごいね、あんなに遠い位置から真ん中当てちゃうなんて!」

「そんなことないですよ。俺より上の狙撃手スナイパーはいますし」


確かに、他にも狙撃手スナイパーはいるだろう。うーん、私あんまり基地の中うろつかないからなぁ……。また隊員が増えてるみたいだし。


「あ、そうだ。試しに撃ってみますか?よければ俺が教えますよ」

「いいの?使っても」

「大丈夫です。俺が見てるんで」


奈良坂君に案内され、訓練室の奥へと入る。しばらく訓練室を見渡していると、奈良坂君が狙撃手スナイパー用のトリガーを持って戻ってきた。


「じゃあまずはこれから。これは『イーグレット』というトリガーです。狙撃手スナイパー用トリガーの中では射程距離重視の標準型です。これが一番多く使われていると思います」

「おぉ、意外と軽い」


奈良坂君からイーグレットを受け取る。なんか柚宇の所為で、これ見たらちょっと興奮しちゃった……。スナイパーみたいな?いや、狙撃手スナイパーなんだけどさ。


「先輩のトリオン能力はどのくらいですか?」

「うーん、かなり前に計ったけど……自分で言うのも何だけど、結構高い方」

「なるほど。このトリガーはトリオン能力が高いほど射程が伸びるんです。それで、構え方が……」


ナチュラルに私の背後に回ったと思えば、そのまま構え方を教え始めた奈良坂君。ちょ、ちょちょちょちょっと待って!!!?


「あ、あの……な、奈良坂君」

「?どうかしました?」

「えっと、その……近い、です……」

「苗字先輩、狙撃手スナイパーを知らないって言ってたので……」


奈良坂君なりの教え方だったんだね!?ごめんなさい……。


「途中で止めてごめん。続けて下さい……」

「? はい。で、構え方はさっき教えた通りです。あ、的を出して来ますね」


奈良坂君が的を出しに離れていった。……もしかして、自覚無し?イケメンでそれはかなり達が悪い……。嵐山さん以来だ、このときめきは。
目の前に現れたのはボーリングでよく見るピンに似た的だ。…ちょっと苦手かも、あのデザイン。


「撃って大丈夫ですよ」

「うん。ありがとう」


照れながらもちゃんと聞いていた構え方でイーグレットを構える。スコープを覗いて的の中心を狙う。……うぅ、何故か緊張して上手く定まらないや……。これ副作用サイドエフェクト使った方が楽かなぁ……?
と、色々考えていると、肩に軽い衝撃が。


「もっと肩の力を抜いて下さい。それと、深呼吸です」

「あ、ありがとう」


奈良坂君のアドバイス通りにやると、さっきより楽になった気がする。……よし、今だ!!
引き金を引くと同時に銃口から光が放たれた。その光は的の中心から少し離れた場所に当たった。


「! 先輩、上手です」

「お世辞はいいよ〜」

「いえ、初心者で的に当てられるのはすごい事ですよ」


こちらを見て微笑む奈良坂君。かっこよくて褒め上手と来たか……。この後輩、きっと無意識に女の子を落としてそうだな。

次に私は『ライトニング』と呼ばれるトリガーについて教えて貰う事に。
このトリガーは弾速重視の連射型トリガーで、トリオン能力が高いほど弾速が上がると言う。


「あ、さっきのイーグレットより軽い」

「はい。でも威力はイーグレットより低いです」


ライトニングを構え、奈良坂君が出してくれた的を見る。軽いからさっきのイーグレットより構えやすい。私、使うならこれがいいかな〜。まぁ、使わないけど。
そんなことを考えながら引き金を引いた。


「……?あれ?」


弾が見えなかった。もしかして撃ててなかったかな。
そう思ってもう一度引き金を引いた。……あれ、見えない。


「……俺が思っていた以上に先輩のトリオン能力は高いみたいですね」

「?」

狙撃手スナイパー用トリガーはトリオン能力が高いほど、それぞれのトリガーの長所が生かされます。イーグレットは射程距離が伸びるだけで気がつかなかったんですけど……。ライトニングを使っているのを見て分かりました。先輩、トリオン能力高いです、高すぎです」

「う、うん……?」


これは……褒められている、でいいのかな?
奈良坂君が言うには、私のトリオン能力が高すぎて弾速が上がり、弾を認識する事ができなかったらしい。


「と言う事は……アイビスはやめておいた方がいいですね」

「? どうして?」

「アイビスというトリガーは威力重視のトリガーなんです。トリオン能力が高いほど威力が上がるので、先輩が撃ったら恐らく基地に壁が空きます」


そんなバカな……。だけど、狙撃手スナイパーである彼が言っているんだ、きっととんでもない事になるんだろう……。想像しただけでも寒気がしたので、後の祭りにならないようアイビスを使うのはやめておいた。


「ありがとう、お陰で良い体験ができたよ」

「それは良かったです。俺でよければいつでも付き合いますよ」

「うん。また体験させて欲しいな」


こうして奈良坂君による狙撃手スナイパー体験会(参加者は私のみ)が終了したのであった。
……さて、佐鳥君に引っ張られていった公平を探さなきゃね。





2021/03/01


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