愛する君の声が聞こえた

side.忍田真史



『もし暴走したらどうしよう……』

「心配するな。その時は私が対処する」


不安そうな名前にそう声を掛けると、通信機越しに安心したような声が聞こえた。

先程見せた暴走と思われる行動。
本人の記憶にはないそうだ。
彼女の事だ、迷惑をかけてしまったらと心配なのだろう。相変わらず後ろ向きな子だ。しかし、努力を怠らない真面目な子である事も知っている。


「では、始めてくれ」


モニターに映るのは不安そうな表情の名前ただ1人。
昨日のような様子はどこにも無い。


『兄さん、私に応えて……!』


名前がブラックトリガー起動の意思を示した。
……数秒が経過したが、名前が動くような様子はない。
失敗、したのか?

ふらふらとした様子で、立った状態で船を漕いでいる名前。
そういえば、昨日名前を回収した救護班がこんな事を言っていたな……。


『苗字隊員って、緋色の瞳ではありませんでしたか?』

『? ああ、彼女の目は緋色と呼べる色をしているが』

『気のせいでなければ、私が見た時あの人の瞳は___』


……あの救護班の者が言っていたのは本当なのだろうか。
その色は、名前の……!


「……今は名前の現状を把握しなければ」


モニターに映る名前は辺りを見渡して不思議そうにしている。
残念ながらその表情はこちら側に背を向けているため分からない。……あの救護班の1人が言っていた事をここで確認する事もできない。


「聞こえるか、名前。聞こえていたら応答してくれ」


通信を入れてみるが応答はない。
だが反応はあった。


「でも何だ、あの反応……」


今の名前の行動を一言で言うのなら『挙動不審』だ。
名前に声を掛けた瞬間、過剰に反応して辺りを警戒するような動きを見せたのだ。
これじゃあまるで……


「香薫、みたいじゃないか……!」





2021/02/24


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