愛する君の声が聞こえた
side.忍田真史
「ぼう、そう……?」
「ああ。名前が『ブラックトリガーの力を制御できなかった』という事になっている。適合している事に変わりはないから、制御できるまで訓練するよう話が纏まった」
名前が眠っている間に上層部で話し合い、あのブラックトリガーの持ち主は彼女で決まった。
しかしあの暴走とも言える行動がどうしても引っかかっていた。
「待ってよ……!確かに私は兄さんには劣るけどトリオン量は多いし、兄さんと忍田さんに稽古を付けて貰ってたから弱くない!兄さんを制御出来ないなんて事は……!」
「確かに名前は弱くない。それにあのブラックトリガーを作ったのはお前の兄で間違いない。それは事実だ。……だが、彼奴は才能があってトリオン量も多かった。優秀過ぎたからこそ、とんでもないブラックトリガーを彼奴は作ってしまったのかもしれない」
人の命で作られるトリガー『ブラックトリガー』
ブラックトリガーは強力なトリガーだが誰でも使いこなるわけではない。ブラックトリガーに選ばれた者だけが扱う事ができる。これは作成者の意思が影響している。だから名前は起動する事ができたのだ。
しかし名前の兄は優秀なトリオン量と天才と呼べる程の才能を持っていた。だからこそ、強力なブラックトリガーを生みだしてしまった可能性が高い。
……起動は出来ても扱う事は難しい。そんな事があるのだろうか?
「名前。今から訓練室へ行こう」
「訓練室?どうして?」
「ブラックトリガーを起動してみてくれないか。もし、体調が優れないのなら次に回すが……」
実の所、このブラックトリガーは早く実用化させなければならない。
いつ現れるか分からない近界民の襲撃に備えて、名前には一刻も早く扱えるようになって貰わなければならない。それが上層部の声だ。
兄を失って間もない14の少女にとっては酷な話なのは分かっている。
それでも、このブラックトリガーを扱えるようになればこちらの戦力は大幅に上がる事は間違いない。
……ここに留まることを決めた以上は”戦う者”としての覚悟を決めて貰わなければならないのだ。
「……さん、忍田さん!」
「! ああ、すまない。少しボーッとしていたみたいだ」
「そっか。体調は大丈夫。……強いて言うなら、兄さんに受け入れて貰えてない事が苦しいだけ」
「そうか」
「だから、私やるよ。もう一回、兄さんを起動させて扱ってみせる」
「分かった。……じゃあ行こうか。あまり時間はない」
不思議だ。
いつも兄の背中に隠れていた少女が頼もしく見えるなんて。
そしてどこか___彼のように見えてしまうのも。
「所で、兄さん……ブラックトリガーは?」
「自分の耳を触ってごらん」
どうやら気付いていなかったようで、名前は自分の耳に触れて驚いていた。
「ブラックトリガーはもう君のものだからね」
「! ……うんっ」
まだ固いが、名前はこちらを見て微笑んでくれた。
久しぶりに笑顔を見せてくれた名前を見て、自分の口元が緩んだ気がした。
2021/02/23
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