愛する君の声が聞こえた
side.忍田真史
気を失った名前は医務室へと運ばれた。
私はその場で片付けられる事をしようと、書類を持ち込んで作業していた時だ。
「……ん、あれ……?ここは……」
「! 気がついたか」
「しのださん……?」
私の声に反応し、ゆっくりとした動作でこちらを向いた名前。
目の下の隈が相変わらず酷い。
十分な睡眠をとれていない証拠だ。
それもそうだろう。……最愛の兄を目の前で失ったのだから。
ショックも大きいはずだ。
「何があったの?私、ブラックトリガー起動できなかったの?」
「起動には成功した。あのブラックトリガーは正式にお前のものになった」
「! そっか」
ホッとした表情を浮べる名前。
彼女の事だ。自分以外が適合した場合は力尽くでも奪おうとしただろう。
名前は兄に対して異常の執着を見せていた。
しかしそれ以上に兄の方が異常だった。
それは2人の家庭環境が影響しているのだが、この話は置いておこう。
まずは名前に現状を伝えなければ。
「実はお前が気を失って一日が経っている」
「え……っ」
目を見開いてこちらを見上げる名前。
本人もまさか一日経っているとは思わなかっただろう。
こちらも驚いたのだから。
昨日の彼女の体調が優れなかったのは分かっているが、トリガーを起動してしまえば体調云々は影響されないため特に支障はない。あるとすれば気持ちの問題だ。…ただし、これはノーマルトリガーの話だ。
ならばブラックトリガーなら?
未だに謎の多いこのトリガーが何か影響を及ぼしているのだろうか。
彼女には内緒にしているが、他の隊員にこのブラックトリガーを起動できるか試した。
しかし成功したのは名前だけだ。
やはりこれはブラックトリガーを作成した人物の人格が大きく現れている結果なのだろう。
「すみません、迷惑をかけて」
「大丈夫だ。何事もなく君の意識が戻って良かった」
弱々しい表情の名前の頭を撫で、椅子から立つ。
…まだ話は終わっていない。
「さて、君が気になっているであろう事を……ブラックトリガー起動後の名前について話そう」
「……お願いします」
持ち込んでいたパソコンを開き、昨日の録画が入ったファイルを開いた。
2021/02/23
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