とある少女が及ぼした反響
side.緋色
「___」
……。
「___、」
……どこからか、声が聞こえる。
「__て、」
懐かしい感じがするけれど、いつも聞こえる大好きな声。
「___起きて、名前」
大好きな声がはっきりと聞こえた瞬間、眩しい光が視界に映り込む。視界が安定しだした頃、そこに誰かいる事に気づく。
「え……?」
私の視界の中心に入っている人物に声が出ない。
だって、その人はもう二度と会うことができないはずなのに、どうして……?
「おはよう、名前」
そよ風が吹き、私と目の前にいる人の髪を靡かせる。小鳥のさえずりや草木が揺れる音が聞こえる程に穏やかで静かな空間。
ここかどこなのか考える余裕が私にはなかった。
だって、だって……!!
「___にい、さん……?」
碧い瞳に驚いた顔の私が映し出しながら目の前の人……兄さんは微笑みを向けた。
忘れる訳がない。兄さんが目の前にいる。
私と同じ薄い黄色で、肩に着かない程に伸ばされた髪を小さく1つに纏めていて、わざと垂らしている髪を靡かせた人物は、私の知る兄さんの姿だ。
「おう。……久しぶり」
仰向けに眠っていた身体を起こし、隣に座っている兄さんを見つめる。すると、兄さんが両腕を広げた。それは『来い』という合図だった。
「……っ」
久しぶりに見たその合図に、涙を溜めながら私は思いっきり抱きついた。
触れる……温もりを感じる。
幻じゃない、夢じゃない……!!
「おっと。相変わらず甘えん坊だな、お前は」
「だって、だって……!」
「ま、俺としては嬉しいからこのままで良いけど」
頭をそっと撫でられる感覚が、感じる温もりが現実だと実感させてくれる。兄さんがここにいることを実感したくて、大きな背中に腕を回して広い肩に顔を埋めた。
「……無事で良かった」
そう言っていた兄さんの小さな囁きが聞こえない程に、私はこの状況に心酔していた。ここがどういった空間なのか、どうして私がここにいるのか、兄さんがいるのか……全てがどうでもよくなっていた。
兄さんがここにいる。目の前にいる。抱きしめる事ができる。4年半も時間が空いてしまったその空間をただただ埋めたくて。
”この時間が永遠に続けばいいのに”
ふと、叶うはずのないことが頭をよぎった。
その瞬間、少し強めの風が私達の横を通り過ぎた。
「……」
見えない所で兄さんが何処か悲しそうな表情をしていた事に気づかないまま、私はこの状況にただ溺れていた。
とある少女が及ぼした反響 END
2022/5/2
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