とある少女が及ぼした反響

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「名前さんっ!!」


大きな音を立てながら病室のドアが開いた。
病室にいた嵐山隊はその音に反応し、音の発信源へと振り返った。


「出水先輩!」

「君も苗字の見舞いに?」

「はい……。さっき、手術が終わったって聞いて……」


どうやら名前の手術が終わったことを聞いて急いで来たようだ。息が切れているのが証拠である。


「重傷だったって聞きました。よく戻って来れましたね」

「トリオン体で戻ってきたと聞いてる」

「そうだったんですね。でも、その状態のまま戦うなんて、相当リスク高かったですよね……」


出水は名前がブラックトリガーを起動した状態だったことは知っている。そして、ブラックトリガーを起動していた為に緊急脱出ベイルアウトができない状態だったということも。


「苗字は他の隊員がいない場所……主に市街地へ出ようとするトリオン兵討伐に当たっていたらしい。そんな場所で近界民ネイバーに襲われたそうだ」

「じゃあ名前さんは、その近界民ネイバーから逃げ切ったんですね」

「ああ。でも、さっき言った通り、周りに他の隊員がいなかったから、他の人に助けを求めることもできなかったそうだ」

「通信機は? 持ってましたよね?」

「それが……近界民ネイバーとの交戦で破損して、戦闘中に落としていたそうだ」

「そんな……」

「運良く近界民ネイバーからは見逃されたと聞いている」


嵐山から伝えられた名前の状況を聞いて、出水は自分が尊敬する先輩がどんな状況下でいたのか想像する。

近界民ネイバーによって傷付いた生身を抱えながら戦う。そして、その相手はブラックトリガー使い。
いくら強い名前であろうともハンデありの中戦うのは厳しいだろうと出水は考えた。

そして、運良く近界民ネイバーとの戦闘から逃れることができたが、その後が肝心だ。


当然であるがブラックトリガーに緊急脱出ベイルアウト機能は存在しない。なので、助かるには自力で基地まで向かわなければならない。しかし、近界民ネイバーは勿論、トリオン兵が捕まえやすい獲物を狙わないわけがない。


「嵐山先輩。名前さんはその後、どうしていたんですか? 敵と戦っていたんでしょうか?」

「いや、敵に見つからない場所に身を潜めていたらしい」

「そうなんですね……でも、どうやって戻ってきたんすか?」

「迅が発見したんだ」

「迅さんが……」


嵐山の口から出た迅の名前を聞いて、出水は複雑そうな表情を浮べた。その様子を見ていた佐鳥が口を開く。


「あれあれ〜? 出水先輩、もしかしなくても迅さんに嫉妬してます」

「う……っ」

「俺が先輩を見つけたかったって思ってるでしょ〜」

「う、うるさいなッ!!」


佐鳥の言葉が図星だったのか、出水の頬は少しだけ赤い。そんな先輩を見て佐鳥はニヤニヤと口元を緩ませている。


「うるさいですよ、2人とも」

「そっとしておけ、木虎」

「ですが……」


木虎は名前がうるさいだろうと佐鳥と出水に注意の声をかけた。しかし、嵐山はその言葉を柔らかく否定した。
その意図は、2人とも暗い表情を浮べていたからだ。

手術が終わったことを聞いてホッとしているのか緊張が緩んだと思われる出水と佐鳥を注意する気に嵐山はなれなかったのだ。


「出水はえーよ、気持ちは分かるけどさ」

「太刀川さん」

「よー嵐山。苗字の様子はどうだ?」


病室のドアが開く。入室してきたのは、太刀川と国近だ。
どうやら出水と共に行動していたようなのだが、2人を置いて先に行ってしまったらしい。そして今、到着したというわけだ。


「まだ意識は戻っていません。それで……」

「……なるほどな」


嵐山が伝えたこと。
それは、名前が助かったのか否かだ。
忍田によると、意識が戻らない限り生死は分からないという。それは運ばれた時点の状態が影響していた。

それでも、出水や佐鳥が明るい表情を浮べているのは、手術が成功したという話を聞いている事ともうひとつ……名前は必ず目を覚ますと信じているからだ。


だが、名前が必ず目を覚ますという保証はどこにもない。その先の未来を知るのは……いや、知っているであろう人物が1人存在する。
その人物は今、どこにいるのだろうか。





2022/5/1


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