とある少女が及ぼした反響

side.×



「は……?」


場所は三輪隊隊室。
小さく驚きの声をあげたのは、三輪隊隊長の三輪だ。


「名前さんが、近界民ネイバーに……?」


彼が何に対し驚いたのか。それは自身が慕う存在の身に起きたことに対してであった。三輪が慕う相手……それは名前だ。


「ブラックトリガーを使ってたみたいでね、ノーマルトリガーに換装する所を襲撃されたそうよ」


名前が近界民ネイバーによる攻撃で負傷した事を伝えたのは、三輪隊オペレーターの月見だ。
彼女から伝えられる内容に三輪の表情はだんだんと険しくなる。

三輪にとって名前は姉のような存在だった。別に実の姉と顔が似ているわけでも、性格が似ているわけでもない。そもそも、彼女のことを初めから姉のように感じていたわけではない。

自分と似た境遇を持つ人。それが三輪が名前に対し興味を抱き、話しかけた理由だった。


対する名前は、ボーダーに入隊したばかりの三輪を見て、どこか危うい存在だと感じていた。姉を殺した近界民ネイバーに対する憎しみを見て、自分を傷つけ始めないか気になった名前は、見かける度に三輪へ話しかけていた。

そんな名前の些細な気遣いに三輪は救われていた。それと同時に、名前を慕うようになったわけである。

つまり、三輪にとって名前はただの同じボーダー隊員という位置づけでは収まることのできない存在なのだ。
そんな相手が近界民ネイバーによって傷つけられた……それを知った三輪はどう思ったのか。


怖い表情を浮べる三輪を見て、月見はモニターへと視線を移した。月見はキーボードを叩き、何かを探し始めた。
数秒後、月見は目的の内容を見つけたのか、再び三輪へ視線を移し口を開いた。


「その相手の近界民ネイバーについてだけど……三輪君が相手をしたワープのブラックトリガー使いの近界民ネイバーみたいよ。報告が上がってきているわ」

「……あの近界民ネイバーか」


月見の言葉に、三輪は名前を傷つけた相手が誰だったのか即座に特定したようだ。それもそのはず、三輪はそのワープのブラックトリガー使いである近界民ネイバー……ミラと交戦したのだから。
それと同時に、名前がミラに何故気づかなかったのかも予想出来た。

名前には強化視覚の副作用サイドエフェクトがあるのだが、その副作用サイドエフェクトに不意打ち攻撃は効かないと言われている。しかし、欠点として名前の副作用サイドエフェクトは常時発動しているわけではなく、自分の意思でオンオフを切り替える形であることだった。

それに加え、ミラが使用していたブラックトリガーは不意打ち攻撃には長けているといえる。何故なら何もない場所から突如現れることが可能だからだ。


「……逃がすんじゃなかったな」


名前がこのような目に遭っていたと知っていれば、ミラともう1人、ハイレインと交戦していた時の三輪はどのような行動を取っていたのだろうか。


「おー、秀次。早かったな」

「……陽介」


隊室の出入り口が開く。入室したのは三輪隊隊員の米屋だ。後ろから同じく三輪隊隊員でスナイパーである奈良坂と古寺が、米屋に続いて入室する。


「どうしたー?顔こえーぞ」

「名前ちゃんが運ばれたの」

「はっ!?嘘、マジ!?」


月見から伝えられた名前の事情について、米屋が驚きの声をあげた。口には出さなかったが、奈良坂と古寺も驚きの表情をその顔に浮べている。


「苗字先輩が…」

「あの人がそう簡単に負けるようには見えないが…」


古寺と名前はこの場にいる隊員と比べるとそこまで交流はない。ただし、隊長である三輪絡みで顔を合わせることはあり、全く知らないというわけではなかった。

奈良坂は一度、スナイパートリガーの使い方を教えたことがある。それ以降、不定期ではあるが名前にスナイパートリガーを教えていた。

2人はスナイパーであるが為に、個人ランク戦のブースは滅多に訪れない。何故なら訪れ
る理由がないからだ。しかし、米屋がよく模擬戦を申し込んでいることを知っており、あまり勝たせて貰っていないことを知っているため、名前の実力は想像しやすかった。


それに、昨月にあったとある出来事で古寺と奈良坂は名前の実力を目の当たりにして、実際に敗北している。
ここにいる誰よりも昔からボーダーにいた名前は、所属している年月が長いだけあって当然実力ある存在だ。だからこそ、名前が倒されたという事実に驚いたのだった。


「!」

「どうした」

「名前ちゃんの手術が終わったそうよ」


月見が放った言葉に誰よりも早く反応したのは三輪だ。
三輪は真っ先に隊室を出ようと出入り口へ歩く。


「どこにいくんだよ?」

「名前さんの所に行く」


三輪は米屋の問いに答え、すぐに隊室を後にした。
その様子を見ていたものは、三輪がどれだけ名前を大切に思っているのか分かっているのか、どこか困ったようではあったがそれでも優しげな表情で自分たちの隊長を見送った。





2022/4/27


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