玉狛支部
「あ、名前じゃない。来てたのね」
暫く栞ちゃんと烏丸君、迅さんで雑談していると桐絵が帰ってきた。後ろにレイジさんと陽太郎君がいるので、3人で買い物に行ってたみたいだ。
「桐絵! なんでいないってのを事前に言ってくれないの!?」
「悪かったわよ。ほら、チョコ買ってきたから機嫌直して」
「……次はないから」
桐絵が差し出したチョコを貰い、袋を開けてかじる。うん、美味しい。
「美味しそうに食べてますね」
「覚えておきなさい、とりまる。名前はチョコレートをあげれば大体のことは許してくれるわ」
何その動物にエサを与えているような言い方は……。
事実だから何も言えないけど……。
「それより、なんで私を呼んだの?」
「うさみととりまるを紹介したかったのよ。まあ、先に迅が紹介しちゃったみたいだけど」
「済ませちゃった」
……可愛く言っても全然可愛くないです、迅さん。
心の中でそう思ったが口に出さないでおく。
「てっきり荷物持って帰れって言われるかと思った」
「なんでそんなことで呼ばなきゃいけないのよ」
「だって私、ここに色々置いたままじゃない? 楽器とか小さくなった服とか」
「は? あんたドラムまだあの部屋にあったの!?」
「うん。それに、兄さんの荷物もそのままだし」
「まあ別にいいんじゃない、そのままで。来る理由になるでしょうし」
「……じゃあ、持って行けって言われるまで置かせて貰おうかな」
荷物の話をしていたら自分が使っていた部屋と、兄さんが使っていた部屋が気になった。
ちょっと見てきていいかと聞けば、どうぞと見送られた。
階段をのぼって広がった廊下。
懐かしいな、ここも。
「えーっと、どこだったっけ……」
流石に4年も離れたら忘れてしまった。
自分の使ってた部屋は……。
「ここでしょ?」
「……なんでいるんですか」
「きっと忘れてるだろうなって」
後ろから声を掛けてきたのは迅さんだった。
……またあの副作用で視たって訳か。
だが忘れていたのは事実である。
くそう、その副作用は反則でしょ!
「ここが名前ちゃんの部屋だよ。荷物はほとんど本部に移ってるみたいだけど」
「……ドラムセットあった」
「運ばなかったの?」
「……ここには兄さんとの思い出があるから。ここに置いておきたいんです」
「……そっか」
空いた時間ができたら、知ってる曲を演奏していた。
偶にボーダーの皆の前で披露したっけ。
私はギターのコードを覚えられなくて、ドラムを任されたっけ。
「俺のギターを支えるようなドラムを叩いてくれ」って。
兄さんはギターもドラムもできる人だった。だからずっと教えて貰ってたなぁ。
「……ずっとここに置いておけばいいよ」
「え?」
「思い出の場所なんでしょ? だったらここに来て叩けばいい」
「……はい」
この部屋には沢山の思い出が詰まってる。
一緒に演奏した思い出、私が怖い夢を見たとき兄さんが一緒に寝てくれた思い出、私を強くするために色んなアドバイスをくれた思い出……思い出したら切りがないや。
少しでも私と兄さんが過ごした跡を残したいんだ。
「……ま、おれは名前ちゃんと会える機会が増えて嬉しいけど」
「!」
その言葉にビクリと身体が反応した。
それと同時に顔が熱くなる感覚もした。
「おれ以外にも小南や林藤さんも喜ぶし……って、名前ちゃん?」
「……今こっち見ないでください」
「何々〜? 照れてるの?」
「う、うるさい!! 迅さんなんて嫌い!!」
「えぇ!? なんでその流れになるの!?」
熱い。絶対顔が赤い。
こんな姿、なぜか迅さんに見せたくない。
そう思った時には部屋を飛び出していた。
廊下を走り、急いで階段を降りた。
……その先に誰かいることに気づかずに。
「わっ!?」
「! すみません」
ぶつかった相手は今日知り合ったばかりの烏丸君だった。
……どうしよう。気まずい!!
2021/09/18
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