とある少女が及ぼした反響

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「名前さんが運ばれた!?」


場所は太刀川隊隊室。
名前が怪我を負い運ばれた事に大声をあげたのは、太刀川隊隊員、出水だ。


「うん。詳しいことは分からないけど、運ばれたのは間違いないって」


出水へその事実を告げたのは、太刀川オペレーター国近だ。
彼女は名前とは友人関係であり、出水に告げながらも彼女の身を案じていた。


「名前さんが負けるとか考えらんねぇ……」


出水は名前とよく模擬戦をしている1人だ。そのため、彼女の強さは良く分かっていた。だからこそ、名前が近界民ネイバーに負けた事を認めたくなかった。


「というより、どうして怪我を? 生身じゃなきゃ怪我なんて……」

「ブラックトリガー使ってたんだって。多分、ノーマルトリガーに換装するタイミングを狙われたのかも……」

「そっか、ブラックトリガーには緊急脱出ベイルアウトがないから、換装が解けたら生身に戻っちまうんだ……」


暗い雰囲気の隊室のドアが開く。
そして、誰か入ってきた。


「おーおー、どうしたんだよ。そんなに落ちこんで」

「太刀川さん!」


入ってきたのは、太刀川隊隊長、太刀川だ。
どうやら名前の身に何か遭ったことを知らないようだ。それもそうだ、先程まで彼は残ったトリオン兵討伐を行っており、今帰ってきたのだから。


「知らないんですか? ……名前さん、運ばれたんすよ」

「は? 彼奴が?」



太刀川も名前とよく模擬戦をする1人だ。そのため、太刀川も名前の強さを理解していた。
出水から告げられた事に目を丸くさせ、太刀川は驚きの表情を浮べていた。


「まさか、新型にやられたのか?」

「……いや、人型近界民ネイバーだって報告がある」

「人型近界民ネイバー……俺と別れた後で接触したのか?」


爆撃型トリオン兵イルガーの討伐と同時に戦場へ駆り出された2人は、新型討伐の任を与えられていた。

実は2人、とある競走をしていた。その競走とは、『どちらが多く新型を討伐できるか』だ。その提案をしたのは、お互いが実力を理解して認めていたからだ。


「彼奴が負けるような奴じゃないだろ。どういうことだ?」

「ブラックトリガーを起動してたみたいです」

「本当か、それ」


二手に別れた後、名前は途中で大量のトリオン兵と接触した。その数に対抗するため、ブラックトリガーを起動していた。
その事実は他の隊員に通知されないため、大体が終わった後に知られることになる。


「名前さんのブラックトリガーってどんな能力なんですか?」

「しらねーよ。俺、ブラックトリガー使う苗字見た事ねーし。上層部なら知ってるんだろうけどさ」


名前のブラックトリガーについては、とある秘密は勿論、性能すら知らない者が多い。実は性能については隠しているのではなく、伝えていないというのが正しい。


「ですよね……。遠征前のテストで戦った時も、名前さんノーマルトリガーでしたもん」

「気になるよなぁ、あいつのブラックトリガー。ブラックトリガーで戦ってでも負けたってことは、相手と相性が悪かったのか……?」

「もしかして、あの人型近界民ネイバーか……?」

「ん? 出水、なにか気になる事があるのか?」

「はい。俺、動物の弾を飛ばしてくるブラックトリガー使いの近界民ネイバーと戦ったんすけど、もしかしたら名前さんもそいつにやられたんじゃないかって」


出水が交戦した近界民ネイバーとは、ハイレインの事である。そして、彼の予想は当たっていた。
しかし、名前がハイレインと交戦していた事は通知されていない。まだ上層部止まりであるからだ。


「……名前、大丈夫かなぁ」


国近が最後に名前と話したのは、本部まで共に移動してきた時だ。この時は名前がこのような目に遭うと想像していなかったからだ。
それは国近だけではなく、他にも言える事だった。誰もが彼女の身に危険が付くと予想出来ていなかったのだから。



「……迅のやつ、この未来が視えてたんじゃないのか」



そう呟いた太刀川の声は、いつもの調子と違い低いものだった。





2022/4/24


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