大規模侵攻後編

side.碧色



『まだ、死にたくない……!』


……声が聞こえる


『……おねがい、たすけて……兄さん……!』


可愛い妹の痛々しい声が



「……当たり前だろ」


その声に答えると同時に、名前が俺の視界に現れた。
その姿に俺は目を見開いた。

なんたって、目の前に現れた名前は所々に怪我を負っていたのだから。
手、腕、腹。見た所、穴が空いている。
間違いなく誰かの手によって空いた穴だ。


俺には時間という概念が存在しない。
だから名前が助けを呼んだタイミングがいつの時間なのか分からない。だけど、なんとなくだけど、交代したタイミングからそう時間が経っていないのではと思った。


「後は俺に任せてくれ」


名前の魂に触れて、俺は浮上した。
あの怪我は放置したらダメだ。身体に穴が空いているって事は、それなりに血が流れていると言う事だ。


「絶対に……絶対に、死なせない……!!」


……速効で終わらせる。
終わらせて、急いで安全な場所まで向かう。



***



「何故? ブラックトリガーはもう起動出来ないはずでしょ……!」


近界民ネイバーの女が何か言ってるが、興味ない。俺には今、目の前の女を殺すことしか頭にない。
そのトリオン体をぶっ壊して、生身を引きずり出して……息の根を止める。


「っ!?」


もう一度距離をつめる。
今度こそそのトリオン体を破壊してやる。

低い体勢で女に近付いた俺は、構えたブレードを上へ振り上げようと腕を振った。


「は……?」


手応えがない。
そう思っていると、俺の腕は黒いゲートのようなものに吸い込まれていた。そして、俺の目の前には、俺が持っているはずのブレードの先。
どういうことだ……?

腕をゲートから引き抜くと、案外すんなり戻ってきた。
……あぁ、なるほど。そういうことか。


「ワープか」


そう考えるしか先程の状況を説明しきれない。
いつの間にか俺の後ろに移動していた女はこちらをジッと見つめていた。恐らく様子を窺っているんだろう。

ワープなんてやっかいだな。
でも、逃げられる前に打てばいいだけだ。


「!」


俺の周りに黒い何か浮かんだ。
嫌な予感がした俺はすぐさま横に飛んだ。刹那、俺がいた場所に針が伸びた。


「なるほど、やっぱり……」


名前に怪我を負わせたのは彼奴で間違いねーようだな。
やっぱり彼奴は殺す。絶対殺す。
片手にブレードを握ったまま、低い体勢で女の元へ走る。途中、先程の針が俺を貫こうと襲ってきたが全て躱す。


「捉えた」


そして、俺の目の前には近界民ネイバーの女。
今度こそ……!?


「な……っ!?」


俺は女の元へと走っていたはずだ。なのに、目の前には女どころか場所が変わっている。……まさか、俺ごと別の場所に飛ばしたのか?


「チッ、面倒な事しやがって」


俺は近くの高い場所へ移動し、先程までいた場所の光景を思い出しながら辺りを見渡す。
すると、案外近くにあの女はいた。もしかしたら咄嗟の行動だったから飛ばす距離は計算していなかったのかもしれない。


「! 逃げる気か」


女は自分の背後にゲートを展開したと思えば、そこへ入って行くではないか。


「逃がさない」


建物の屋上を跳び移りながら俺は女の元へ急いだ。
腕だけじゃ足りねェ、命を奪わなきゃ俺のこの怒りは収まらない……!


……その時俺は気づかなかった。
右耳に付いていたボロボロの通信機が落下していたことに。





2022/4/17


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