大規模侵攻後編

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「……目標達成。さぁ、戻るわよ」


ミラが自分の背後に黒いゲート……彼女の扱うブラックトリガー窓の影スピラスキアによる能力で空間を繋ぐ『窓』を開いた。
その大きさは『大窓』と呼ばれ、開いた本人は勿論、トリオン兵も通ることが可能である。

ラービットが名前を抱える所を確認したミラは、先に大窓を潜ろうとした……その瞬間だった。



「?」



後ろから物音が聞こえた。
その音にミラは自分の背後を振り返った。


「は……?」


なんと名前を抱えていたラービットが2体とも弱点から煙を吐いて停止しているではないか。
それに、何かによってバラバラに斬られた形で破壊されていた。

おかしい、ここには他の兵はいない
目の前にいる目標の兵と自分しかいないはず

そう思っていたミラは、側に倒れていた名前を見る。
まだ目標は近くに倒れている。名前を回収するのがミラの仕事だ。
ミラは名前の元へ近付こうとした刹那


「!?」


ミラの横を稲妻が横切った。
咄嗟に躱したミラだが、攻撃のスピードが自身の反応速度で躱せる範囲だったため良かったが、もっと早ければ頭が吹っ飛んでいた。
そう彼女が思うほど、その攻撃は鋭く精密だった。


「何が起こっているの……?」


後ろへ飛び退いたミラは名前の様子を窺う。
すると、意識を失っていたはずの名前がゆっくりと立ち上がるではないか!

自身が着けた傷の周りに黒い閃光が走り、そして怪我が消えた。人間には瞬間的に傷が癒えることはない。なのに何故、彼女の怪我が治ったのか。



「あの怪我で動けるはすがない。それに、トリオン体へ換装する代物だってあそこに……」



……否、怪我が癒えたのではない。名前はトリオン体へ換装していたのだ。
しかし彼女のトリガーホルダーは遠い位置へ飛ばされてしまい、名前の手の届く場所にはなかった。

それに、ミラが名前を襲撃したのは、トリオン切れを起こしたからだ。なのに何故、トリオン体へ換装できている?


名前が持つのはもう使う事の出来ないブラックトリガーだけ。ミラの認識は正しく、誰しも思う事だ。
だが、誰もが予想することのできない能力を持つのがブラックトリガー。ミラはそこを見落としていたのだ。


「それはブラックトリガーのときに使っていた……!」


名前の片手に見覚えのある武器が現れる。
それはブラックトリガー使用時に使っていた黒いブレードだった。

名前はブレードを出現させると、一気にミラの元へと距離を詰めた。その速度はまさに居合いのよう。


「……名前をこんな目に遭わせたのは、お前だな」


ミラが捉えた名前の表情は、先程までの弱々しさはなかった。
鋭い碧色・・の瞳が、ミラに対し怒りを顕わにしていた。


「っ!?」

「……チッ」


予想外の事で反応が遅れたミラは片腕を失いながらも、名前の攻撃を躱した。その衝撃で彼女は尻もちをついてしまった。
対する名前は思い通りに攻撃が通らなかったからなのか、舌打ちをうった。


「どうして……もうブラックトリガーは使えないはず……」


ミラの問いに名前は答えなかった。
ただし、彼女の声は聞こえていたようで座り込んでいるミラを碧色の瞳で見下ろしていた。


は今、最高に腹が立っている。……俺の大切な存在を傷つけたんだ、分かってるよな?」


ゆっくりと近付く彼女は、纏うその雰囲気だけで誰かを殺す勢いだ。
名前……否、香薫はブレードをゆっくりと振り上げて、ミラに向けて思いっきり振り下ろした。



「死ね、近界民ネイバー





2022/4/17


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