大規模侵攻・中編
「さて、どうするか」
少し前の事もあってまさっちに話しかけづらい。
副作用の影響でしばらくすればトリオン兵が寄ってくるだろうが、トリオンの無駄だ。
俺に貯蔵されたトリオンはまだ余裕がある。けど、民間人がいる警戒区域外にいるトリオンはまだ余裕を俺へ引き寄せるには、副作用を発動しておくのがいい。
けど、貯蔵されたトリオンは有限だ。この先何があるか分からねーし、易々と副作用を発動しておくのはあまり良くない。
素直に謝る?
……そう思うけど、変な意地で声を掛けるのを躊躇っている自分がいる。
「場所を移動するか」
とりあえず高い場所に上ってトリオン兵を探すか。一番はやっぱり沢村さんに教えて貰うことなんだろうけどさ。
右耳に着けている俺専用の通信機は、俺が通信を切っているから向こうからの連絡は一切受け取っていない。
普通、この状況で通信を切っているのは、危険な行為なんだろうけどさ。
倒した新型の弱点からブレードを引き抜いて、さあ移動しようと方向転換した瞬間だった。
「!」
何かの気配を感じ、自分の周りにシールドを展開した。
ま、俺が知るシールドとは作りが違うけど。
シールドとは言ったが、ただの物質化した簡易的な壁だ。それなりに強度はあると思っている。ま、わりと何でもできるからな、俺。
シールドを展開して数秒後、俺の予想通り攻撃が飛んできた。俺の感、まだ鈍ってなかったな。
シールドの外を見ようと少しだけ薄くし、様子を窺う。
「あ、防がれた」
「不意を突いたと思ったのに……って、あれ? もしかして苗字先輩……?」
そこにいたのは、ツンツン頭の男と、髪を一つに纏めた男。恐らく俺より歳下。まあ俺は17歳で時が止まっているわけだけれども。
しかし、俺を先輩と呼んだこの男二人に覚えはない。ということは、名前の後輩だ。
ということは……まずい。このシールドを解いたら間違いなくまずい状況になる。
今俺は自分の姿を形取っている。いくら俺と名前が双子の様に似ているといえども、体格差とか、男女の顔つきの差とがあるから、流石に名前じゃないとバレる。
「なんとなく後ろ姿が似ていた気がしたけど、合ってたね」
「すみません、近界民だと思って攻撃を……!」
なんか髪結んでるこの男、生意気だな。生意気君でいいや。
ツンツン頭の男は真面目そう。この子はツンツン頭君でいいかな。
「あれ、苗字先輩ってこんなに身長高かったっけ? 俺と同じくらいじゃなかったけ」
「それにどこか雰囲気も違うような……?」
段々話に着いていけなくなり、声を掛けようにも何をどう掛けたらいいか悩んでいた時だった。
「菊地原、歌川」
___聞き覚えのある声が聞こえたのは。
「あ、風間さん。苗字先輩の偽物見つけました」
「名前の偽物?」
「どう見ても苗字先輩だと思うんですけど、身長は高いし、どこか雰囲気も違う気がして……」
目の前の二人が後ろを振り返る。
そして、俺が生前何度も口にした名前を呼んだ。
「偽物って……名前は名前だろ?」
「だって見てくださいよ、苗字先輩は俺と身長そんなに変わらないんですよ? でも、この偽物明らかに180近くあります」
「トリオン体の姿を変えたってなれば話は変わりますが、さっきいつのも姿でしたしこれじゃあ偽物としか言いようがありません」
キクチハラとウタガワと呼ばれた男二人は、奥にいる誰かに俺を見せるためか横にずれた。
そこから見えた姿に俺は目を見開いたと同時に、気が緩んでしまったのかシールドを解除してしまった。
「……どうして、お前が……?」
聞き覚えのある声に、見覚えのある顔。
鋭い赤い瞳が俺を捉えた。
……間違いない、お前は。
「___そう、や?」
蒼也
風間蒼也
俺が生前『友』として接していた存在だ。
でも、もしこれが俺の勘違いで、顔の似た別人だったら?
……そんな考えは早々に壊れた。
「香薫……!」
なぁ、まさっち。
まさっちはこの状況を危惧してたんだよな。ごめん。
でも今俺は”嬉しい”と感じてしまっている。
時間という概念が存在しないからこそ、長い間会えなかった感覚なんだ。
2022/4/16
prev next
戻る