兄さんの秘密



「やっぱりって……」

「名前ちゃんはそうやってすぐに自分の所為にするクセがあるからね。何となく分かってた」


はい、どーぞ
迅さんからマグカップを受け取り口を付ける。……ホットココアだ、美味しい。

空閑君にもマグカップを渡した後、迅さんはもう片方の隣に座った。


「名前ちゃんが全部背負うことはないだろ。読めなかったおれの方に非がある」

「違います、私が悪いんです! 私が足を引っ張ってしまったから……」

「そもそも名前ちゃんが足を引っ張ってるなんて誰が言ったの」

「迅さんの副作用サイドエフェクトがなかったとしても、私があそこでヘマしなかったら……!」

「いいや、おれが!」

「私が!!」


なんか段々言い争いになってきた……。
こればっかりは譲る気はない。だって私が悪いんだもん!!


「……レプリカ、こう言うのってなんて言うんだったっけ。前にクラスのヤツが言ってたよな? たしか何とか喧嘩」

「痴話喧嘩だな」


空閑君とレプリカ先生の会話が耳に入り、その中で出てきた単語に反応してしまった。
ち、痴話喧嘩ってのはカップルの喧嘩のことを言うんじゃなかったっけ!?


「く、空閑君! 使い方が違うよ!!」

「そうなのか?」

「そう! それはカップルに使う言葉だから!! 私と迅さんは、そっそそそんな関係じゃないから!!」

「すごい動揺してるよ、ナマエ先輩」


そりゃあ急に痴話喧嘩とか言われたら動揺するよ!
それに……痴話喧嘩って思われたって事は、私と迅さんが空閑君にはカップルに見えたってことでもあるし。


「なんだよ、つれないなぁ。おれ達の仲じゃん」

「どんな仲ですか! あ、ちょっと触らないでください!」

「おれには付き合ってるようにしか見えないけど?」

「空閑君やめてええええっ」


……そう口では言ってみるも、本心は違う。
今まで拒絶してきたくせに、そういう関係になりたいと望んでいる自分がいる。……なれるはずが無いのにね。


「ナマエ先輩、面白い嘘つくね」

「へ?」

「遊真、それマジ?」


……何故か迅さんがこちらを見てニヤニヤしている。


「へぇー……良い事知っちゃった」

「は? え?」


迅さんの反応に困惑するしかない私。
今の状況を何も理解出来ていない。
と言うより、空閑君の言った言葉……なーんか聞き覚えのあるフレーズなんだよなぁ……。


「教えてあげよっか? 遊真は副作用サイドエフェクト持ちなんだ」

「? はい」

「んで、その副作用サイドエフェクトは”嘘を見抜く”っていう副作用サイドエフェクト


……あぁ、思い出した!


『ふーん……オマエ、つまんない嘘つくね』


今日緑川君に向かって言ってたヤツだ!
なんか確信を持ったように言うから不思議に思ってたんだよ!
その正体がまさか副作用サイドエフェクトとは思わなかった。
……てことは、空閑君は私がさっき嘘着いたことが本当に分かってたって事!?


「あれー? 名前ちゃん、おれのこと嫌いじゃなかったっけ?」

「……別に嫌いとは言ってません。でも苦手だとは思ってます」

「遊真」

「嘘は付いてないよ」

「ちぇー」


苦手だと思っているところがあるのは本当だ。
……空閑君の前で嘘を付かないようにしよう。
空閑君がいるとイタズラが成り立たないから、やるときは気を付けよう……。

少し話が落ち着いたと思った時、いかにも完了と言いたげな音が鳴った。


「解析完了だ」


レプリカ先生がブラックトリガーの解析が終わったと告げた。
……どこから話が逸れたか分からないけど、本来の目的はこっちだ。

でも、空閑君がボケて(?)くれたから湿っぽい空気から抜け出せた。後でお礼を言おう。……危うく迅さんへの気持ちもバレるところだったけど。



「お、そうだったそうだった」

「レプリカ先生……どうでしたか」


私の口から出た声は震えていた。
それは兄さんについて何か分かるかもしれないという気持ちからなのか、それとも知りたくなかった内容があるかもしれないという恐怖か。

……どちらにせよ、私は知りたいからブラックトリガーを渡した。
覚悟を決めよう。





2022/2/26


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