兄さんの秘密



「ブラックトリガー故複雑な構造をしているのは承知だったが……面白い構造をしている。まず、このブラックトリガーはトリオンを貯蔵する事が可能だ。恐らく把握しているだろう」

「はい」

「それに、どうやらこのブラックトリガーは換装時に姿を変えられるようだな」

「ですね」


……一応、私がブラックトリガー換装時に兄さんと入れ替わっていることは伏せている。
これは1番知られてはいけない機密事項だから。


「……そして、これが1番驚いた」

「驚いた……? 一体何があったんですか?」


レプリカ先生の言葉に不安が募る。
……一体何があったと言うのか。



「___このブラックトリガーには”魂”が封印されている」



レプリカ先生の言葉は、私の頭を一瞬だけ停止させるには十分だった。


「たま、しい……?」


やっとの事で絞り出せた言葉は、声になっていただろうか。
それほどに私は今、驚いている。


「恐らく、このブラックトリガーを作成した本人のものだろう」


レプリカ先生の言葉が頭に染みついたように離れない。
ずっと頭の中で響いている。


「何か知っているのではないか?」

「名前ちゃんはブラックトリガーに換装した後、その封印された魂と意識が交代しているんだ」

「なるほど。起動とは、起こすという事。恐らく、トリガー起動と同時にこの魂を呼び起こしていたんだろう」

「……名前ちゃん? どうかした……!?」


迅さんが私の視界いっぱいに映る。
でも私はそんなこと気にならなかった。


「ナマエ先輩……泣いてるの?」

「ご、ごめ……っ、とまらない……っ」


レプリカ先生の言葉を聞いたら、自然と瞼の奥が熱くなって。視界が歪んで。
気づけば涙が溢れていた。


「ずっと……ずっと疑問に思ってた。だけど、知るのが怖くてそのままにしてた。……でも、知る事が良かった……っ」


……兄さんは、こんなにも近くにいたんだ。
ブラックトリガーの中で、ずっと側にいたんだ。

ブラックトリガーを、兄さんを掌に載せると、抱きしめるように胸に抱えれば温もりを感じた気がした。
隠せない自分の嗚咽が部屋に響く。
それでも止まらなくて、顔を俯かせた時。


「!」

「……知って良かっただろ」

「……はい」


ポンッと頭に乗った温もり……迅さんの手の温もりにまた涙が溢れた。
下を向いてるから、迅さんにはバレてないと思う。


「トリガーを起動した際、トリガーの中に格納されているトリオン体と生身の身体が入れ替わる。それと同じ原理なのかもしれないな」

「なるほど……そう言われると納得できる」

「だが、このブラックトリガーはトリオンを貯める事が主な性能。貯蔵されたトリオンがなくなったとしても起動はできるようだが、その際は適合者であるナマエのトリオンを起動時に吸収してしまうようだ」

「そんな事が……。名前ちゃん、思い当たる事ある……って、今は聞けないか」

「は、はなせます……っ」


流石にずっと泣きじゃくっているのは恥ずかしい。
少し落ち着いてきたから、私も会話に参加しないと。

ずっと撫でてくれていた迅さんの手が、私が顔を上げたことで離れた。
それに寂しさを覚えてしまい、それを誤魔化すように咳払いした。


「……忍田さんから聞いた話ですが、初めてブラックトリガーを起動したとき、私のトリオンを吸収して起動したと兄さんが言っていたそうです」

「言っていた? 会話できるのか?」

「できるよ。ブラックトリガーを起動した後、名前ちゃんはお兄さん……香薫さんって言うんだけど、その人と入れ替わる。名前ちゃんという存在を借りてその場にいるって感じだから、普通に会話できるんだ」

「なるほど。面白いな」


兄さんの魂がブラックトリガーに封印さている事を知ったが、新たに疑問が生まれてしまった。
……どうして兄さんの魂が封印されているんだろう、という疑問だ。


「あの、どうして兄さんの魂が封印されているんでしょうか」

「ブラックトリガーというのは作った本人の人格が反映される。これは私の推測だが、このブラックトリガーを作った本人の状況が反映されているのでは、と考えている。ブラックトリガーが誰にでも起動出来る代物ではないのが、作成者本人の人格が現れているからという原理に似ているのかもしれない」

「作った本人の状況……」


トリオンを貯めるトリガー
起動すると封印された魂が入れ替わる
……この2つが、兄さんがブラックトリガーを作った時の状況を指しているのだろうか。


「……ありがとうございます、レプリカ先生」

「しかし、まさか解析しようとしたら抵抗されるとは思わなかった」

「ていこう?」

「時間が掛かったのは、ブラックトリガーを作成した本人の魂が抵抗したからだと思っている。ここまで人格が反映されているのは驚いた」

「じゃあ、このブラックトリガーはナマエ先輩だけのブラックトリガーってことだな」

「私だけの?」


空閑君の言葉に首を傾げる。
すると空閑君は自分の指に嵌められた指輪を私に見せた。


「おれがブラックトリガー持ってるのは知ってるよね」

「うん」

「これがおれのブラックトリガー……親父のブラックトリガー」

「空閑君の、ブラックトリガー……空閑君のお父さんが作ったブラックトリガーだよね」

「そ」


空閑君の指に嵌められた指輪……ブラックトリガーが部屋の電気に反射して輝いた。



兄さんブラックトリガーの秘密 END





2022/2/27


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