兄さんの秘密
「おかえりなさ〜い……って、苗字先輩がいる!」
「こんばんは、栞ちゃん。お邪魔します」
しばらく歩いて、数日ぶりの玉狛支部に到着。
迅さんが玄関の扉を開けて「お先にどうぞ、お嬢さん?」なんて声を掛けてくるから、素で照れてしまった。そしてそれをからかわれた。
……私、こんなに照れ屋じゃないはずなんだけどなぁ。
「遊真いる?」
「遊真くん? うん、リビングにいるよ」
空閑君?
どうして迅さんは空閑君の名前を出したんだろう。
そう思いながら迅さんに着いて行ってリビングに向かう。
「あ、迅さんお帰りなさい……って」
「こんばんは」
「おぉ、ナマエ先輩じゃん」
リビングに入れば、ソファーに三雲君と空閑君、見慣れない女の子が座っていた。
「メガネくんと遊真は面識あるみたいだな。じゃあまだ紹介できてないのは、千佳ちゃんだけかな」
「チカちゃん?」
「そ。そこにいる女の子が千佳ちゃん」
聞き覚えのある名前だな……あ、今日空閑君が言ってた気がする。
迅さんが手招きすると、女の子はこちらに歩いて来た。
……ちっちゃい。小学生かな。
「は、はじめましてっ。『雨取 千佳』です」
「こ、こちらこそはじめまして。苗字名前です」
「わぁ……本物だ!」
「うん?」
なぜかキラキラした目で見られている私。
彼女の反応に首を傾げる。
「あの、千佳は苗字先輩のこと知ってて……。たしか、嵐山隊に入ってましたよね?」
「うん。あ、本物ってそういう意味?」
三雲君の補足を聞いて、雨取ちゃんにそうなのかと問うと、彼女はコクリと頷き答えた。
「私にとって嵐山隊に入ってた時は軽くトラウマなんだよね……。いろんな意味で」
「そうなんですか? 私、苗字先輩の事ずっとかっこいいって思ってました」
嵐山隊に入ってた時、こんな直球に褒め言葉を貰った事がなかったから、少し照れくさい。
こういうのってファンの声って言うんだよね?
実際に言葉で言われるのは、やっぱり慣れないなぁ……。
「あ、ありがとう……えっと、千佳ちゃんって呼んでいい?」
「はい!」
なんか、妹ができたみたいで可愛い……。
ついつい頭に手を伸ばしちゃったが、特に抵抗されなかったのでそのまま頭を撫でさせて貰うことに。
「いい雰囲気のとこ悪いけど、おれ達は遊真に用があって来たんだ」
「おれに?」
「メガネくん、遊真借りていい?」
「ぼくは別に構いませんが……」
「遊真。今、大丈夫?」
「うん、いいよ」
千佳ちゃんとのやりとりにほんわかしていると、迅さんが本来の目的を切り出した。
とは言っても、私は迅さんがなぜ空閑君に用があるのか分かってない。
「場所を移動しよう。おれの部屋に来て」
「分かった」
再び迅さんの後ろを歩き、迅さんの部屋に向かう。
一体何を考えているんだろうか。
相変わらず読めない迅さんの意図を考えながら歩くと、あっという間に目的地に着いた。
「……さて、名前ちゃん」
「なんですか」
こちらに背を向けていた迅さんが、振り返りながら私の名を呼ぶ。
「香薫さんについて……ブラックトリガーについて知りたくないか」
「!」
迅さんの言葉に心臓がドクンッと脈打った気がした。
「ブラックトリガーについてって……どういう意味ですか」
「言葉の意味だよ」
「でも、どうやって?」
「……遊真、レプリカ先生の力を借りたい」
レプリカ先生?
唐突に出てきた名前に首を傾げる。
「レプリカ? うん、いいよ」
そんじゃ、よろしく。
空閑君がそう言った瞬間、なんか黒いのが出てきた。
「初めまして、ナマエ。私はレプリカ。ユーマのお目付役だ」
「え、えぇ……?」
そして喋った!?
反応に困っている中、迅さんは話を進めた。
「レプリカ先生、頼みたいことがあるんだ」
「聞こう」
「___ブラックトリガーの解析は可能か?」
迅さんの放った言葉は、私の目を見開かせるのに十分だった。
2022/2/26
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