正式入隊日



風間さんが24勝0敗1引き分け、三雲君が0勝24敗1引き分けという結果で2人の模擬戦は終了した。


「風間さんと引き分けるなんて……!」

「勝ってないけど、大金星だな」


最後の試合を見てたら興奮しちゃった!
そう思いながら空閑君の後を追って三雲君の元へ向かう。


「オサム。やったじゃん」

「……やったの、かな?」


空閑君の言葉に少し困り顔な三雲君。
しかし空閑君があげた手を見て何の合図か分かったのか、その手に三雲君は自分の手を合わせた。

なんだかいいもの見ちゃった気分だ。


後から嵐山さんと木虎ちゃんもやってきた。
嵐山さんは三雲君をべた褒めしていて、木虎ちゃんはなんだかんだで認めているような感じだ。

……嵐山隊と三雲君、関わりあるんだ?
私が脱隊した後になにかあったのかな。もう嵐山隊じゃないのに何故か仲間外れ感がある。


「風間さん。うちの弟子が世話になりました」

「そうか。お前の弟子か。最後の戦法はお前の入れ知恵か?」

「いいえ。俺が教えたのは基礎のトリオン分割と射撃だけですよ。あとは全部、あいつ自身のアイデアです」


三雲君達の会話を聞いていると、遠くで京介と風間さんの話し声が聞こえた。
私は二人の会話に耳を傾けることに。


「どうでした? うちの三雲は」

「……弱いな。トリオンも身体能力もギリギリのレベルだ。迅が推す程の素質は感じない。だが、自分の弱さをよく自覚していて、それ故の発想と相手を読む頭がある」


風間さんはトリガーを解除し、トリオン体から生身に戻った。
そしてこちらを……正確には三雲君を見た。


「知恵と工夫を使う戦いは、俺は嫌いじゃない」


風間さんは三雲君にそう言うと、階段を上っていった。


……風間さんは厳しい人だ。
だけどそれは相手のことを思っての発言だということを私は知ってる。
さっきの三雲君に対する発言は、きっと褒め言葉だ。

初めは怖い人だと思ってたけど、交流を深める度に風間さんがどんな人であるか分かってきた。
……なんでこんなしっかりした人と兄さんが仲が良かったのかが分からないけど。あ、決して兄さんがズボラとかそういう事を言いたいわけじゃなくて、お互い真逆な雰囲気だからどうしてなんだろうと思っただけだから!!


「あれ、結局おれとは勝負してくれないの?」


階段を上っていく風間さんを呼び止めるような発言をしたのは空閑君だ。
やっぱりこの子、好戦的だなぁ。

そう思っていると、風間さんは歩みを止めた。


「勝負? お前は訓練生だろ。勝負したければこちら・・・まで上がってこい」


空閑君の問いに風間さんはそう答え、今度こそ階段を上って去って行った。
こちらというのは、正隊員って意味なのかな。
どちらにせよ、風間さんはきちんとした場で戦いたいんだろうね。


「A級3位のかざま先輩か。上にいく楽しみが増えたな」


まだ空閑君の実力を見ていないけど、迅さんから聞いた話が本当ならC級止まりにならず、あっという間にB級に上がるだろう。
……そこでどんな戦いを見せてくれるのか楽しみだ。


「ラストの1戦は良い読みだったな」

「烏丸先輩のお陰です」

「けど、1回読み勝つために20回以上負けてたら、普通はアウトだぞ」

「うっ、は、はい」

「そうよ! 調子に乗らないことね!」


なんか嬉しそうだな、木虎ちゃん……。
そう思っていると京介がこちらを見た。


「名前先輩から何かありますか?」

「え」


なにその部活で顧問から何かありませんか的なやつ!
ま、まあ何もないと言うわけじゃない。


「頭を使った戦い方って中々できないんだよね。そういう指揮官向きの頭脳、私にはないから羨ましいな」

「そ、そんなことないです。それに、読むまでに24回も負けてますし……」

「そこは経験を積めば回数を減らせるはずだよ。三雲君の戦い方、応援したくなっちゃう」

「あ、ありがとうございます」

「これからが楽しみだな、師匠?」

「ははっ、頑張ります」


つたないけど、これで良かっただろうか。
そう思っていると、嵐山さんが慌てた様子でこちらにやってきた。


「三雲君! 大変だ、君達のチームメイトが……」


一体何があったのか。
嵐山さんの伝言を受けた三雲君と空閑君は慌てた様子で仮想訓練施設を後にした。
この場に残っているのは私と京介、木虎ちゃんに嵐山さんだ。


「……あの、何が合ったのか聞いてもいいですか」

「実は、三雲君が組んでる……正確にはこれから組むチームメイトが基地に穴を開けたらしくて……」

「「えぇっ!?」」


嵐山さんから告げられた内容に驚きの声をあげたのは私と木虎ちゃんだ。
京介は全然驚いていない。


「……驚いてないね」

「まあ、何となく予想できましたから」

「?」


確か、迅さんの言ってた後輩は3人だったよね。
さっきまでいた三雲君と空閑君、そしてまだ見ぬもう1人。
一体どんな子なのだろうか。

……その子とは近い未来で対面することになる。



正式入隊日 END





2022/2/23


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