正式入隊日



「烏丸先輩」

「キトラ」

「もう止めさせて下さい。見るに堪えません。三雲君がA級と戦うなんて早すぎます。勝ち目は0です」


確かに木虎ちゃんの言う通り、あまり言いたくないけど三雲君に勝ち目はない。
経験・実力ともに差がありすぎる。


「なんだ、修の心配か?」

「な……っ!? 違います!!」

「オサムだって別に今すぐ勝てるとは思ってないだろ。先のことを考えて、経験を積んでんだよ」

「ダメで元々負けても経験。三流の考えそうなことね。勝つつもりでやらなきゃ、勝つ為の経験は積めないわ」

「ほぅ」

「おー」

「お前、良い事言うな」

「い、いえ! それほどでもっ」


木虎ちゃん、分かりやすい。
京介に褒められて嬉しいんだろうな。可愛い。

訓練とかそうだけど、勝つつもりでやらなきゃ、やってる意味がない。
考えなし、目的なしでやっていれば力にならない。

……昔、あまりにもネガティブすぎる私に兄さんが言ったことだ。
戦闘関連では兄さんは厳しかったから。そのお陰で今の私があるんだけどね。


「しかしまあ、いつ終わるかは始めた2人次第だからな」

「……あ、終わったっぽいよ」


いつの間にかスコアは24-0
当然、24は風間さんのスコアである。

風間さんがスコーピオンをしまった。
空閑君の言うとおり、もう終わりみたいだ。


「……」

「……」

「……出てこないな」

「だな」

「何か話してるみたいだね」


終わったと思えば、風間さんと三雲君は何か話し始めた。
残念ながらここからでは2人の会話は聞こえない。

ただ、風間さんがジェスチャーでこちらの誰かを指指したのは分かる。
……まあ、空閑君だと思うけど。


「あれ、まだやるみたいだぞ」

「なんで……もう十分負けたでしょ」

「さあ……中でなんか喋ってたっぽいけどな」


どんな会話をしていたか分からないし、根拠もないけど……なんか三雲君の雰囲気が変わった気がする。
さっきまで受け身な様子だったけど、今は「何かやってやる」的な雰囲気を感じる。


「三雲君は考えて戦うタイプ?」

「あ、気づきました?」

「うん。ずっとやられてるところを見てたけど、風間さんの動きを観察しているような気がしたから」


私とは真逆なタイプだ。
最低限の事は考えるけど、それ以外は力で押すタイプだからなぁ……。
それも兄さんの影響なんだけど。だって兄さん、力でごり押すスタイルだったから……それで勝っちゃうだもの。


「さあどうする、オサム」


三雲君はキューブを出現させた。
それだけ見ると、これまでの動きとそう変わらない。
……と思っていたが。


「! あれは……」


三雲君はキューブを分割することなく、散弾させたのだ。
その速度は遅く、どうやら訓練室を弾丸で埋め尽くす作戦のようだ。
確かに訓練室ならトリオン切れは起きない。

あんなことされたら絶対動きづらい。
弾をさばきながら、相手の行動も警戒しなきゃいけない。


「カメレオンのままじゃ弾丸を防御できない。考えたな、修。……けど、カメレオンなしでも、風間さんは強いぞ」


突如現れた眩しい光。
それは風間さんがスコーピオンだ。

さすがに隠れ続ける事ができなくなったみたいだ。
でも、カメレオンはあくまで不意打ち・奇襲に向いているだけで、それ無しでも風間さんは強い。
特に間合いが近ければ近いほど、風間さんの領域だ。


「風間さんが動いた!」


三雲君へ接近しに向かって行く風間さん。
それに対し、三雲君は再びキューブを出現させた。

……相打ち覚悟で弾丸攻撃かな。
機動型の風間さんにとってこの状況は動きづらいだろうから、良い作戦だと思う。
でも、私以上に接近型の風間さんがそんな意図読めていないわけがない。

と思っていた時だ。


「えっ!?」


三雲君は私の予想から大きく外れた行動に出た。
なんと向かってくる風間さんに三雲君はレイガストでチャージを仕掛けたのだ。
あのキューブは風間さんを欺くフェイクだったってこと……?


「……すっかり騙されちゃった」


レイガストを使った事がないから分からないけど、さっきのチャージはスラスターによるものかな。

スラスター
レイガスト専用のオプショントリガーで、ブレードからトリオンを噴出してレイガストを加速させるものだ。
レイガストには刃の形のブレードモード、盾の形のシールドモードがあり、どちらのモードでも使用可能だ。


三雲君からの攻撃を風間さんは二刀のスコーピオンで防ぐも、壁まで追いやられてしまう。
……けど、完全に風間さんの間合いだ。
そう思った瞬間、レイガストの形が変形し風間さんが閉じ込められた。

三雲君の片手にはキューブがまだある……って、まさか!


「あの状態からの0距離射撃……!?」


三雲君が狙っていたのは、風間さんの動きを完全に封じた上での攻撃!

素早い風間さんの動きを止めるのは必須条件に近いけど、まさかレイガストで閉じ込めるとは思わなかった。


「……決まった」


三雲君の片手にあるキューブが風間さんに向けて射撃される。
その距離は0に近い。
普通なら防げないだろう。
でも……


『伝達脳破損。三雲ダウン』


そんな簡単に風間さんが罠に掛かるとは思えない。
そう思った時、爆煙から見えたのは三雲君の首からトリオン漏れの煙が溢れている。


「うーん、惜しい」

「惜しかったわね」


私と木虎ちゃんが同じ感想を呟いた中、彼は違った。


「いや、そうでもないよ」


空閑君がそう呟いたと同時に風間さんが爆煙から姿を現した。


『トリオン漏出過多。風間ダウン』


現れた風間さんは片腕がない状態だった。
なぜ片腕がないのか。それは三雲君の仕業しかない。
つまり……


「相打ち……!」


三雲君が風間さんと引き分けた!
そう頭に浮かぶと同時に模擬戦終了のアナウンスが流れた。





2022/2/23


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