正式入隊日
「あ、レイガストだ。珍しい」
「先輩、レイガスト知ってたんですね」
「ねぇ京介まで私をそう思ってたの」
「? なんの事?」
「名前先輩は箱入り娘って言われてるんだよ」
「ハコイリムスメ? なんだそれ」
「まあ一般的には極力人との触れ合いを避けて家庭で大切に育てた娘のことを言うんだけど、ボーダー内ではボーダー関連の事を知らないって意味で箱入り娘って呼ばれてるんだ」
「もう過去の話だよ!!」
そう言われていた時期もありましたとも。
でもね、嵐山隊に入ってボーダーについて詳しくなったから!
もう箱入り娘なんて呼ばせないんだから!!
「あれ、でもあれは射手用トリガーだね」
三雲君の片手から小さなキューブが現れる。
たしか、キューブの大きさはトリオン能力の高さを表してるんだよね。
あのサイズは……トリオン能力低めって事か。
……別に低いからダメってことじゃないよ!?
「修はレイガストを盾に使う射手です」
「なるほど。面白い組み合わせだね」
レイガストを使う人は少なく、あまり見かけない。
だけどレイガストを使う人を私は知っている。とは言っても、使っている所を見た事あるのはレイジさんと、同い年の子くらいかな。
レイガストを使うとなれば、防御・支援型かな。
そう思いながら見ていると、風間さんの姿が消えた。
あぁ、アレか。
「あ、消えた」
「”カメレオン”だ」
カメレオン
オプショントリガーの一つで、トリオン体を透明化し視認できないようにする隠密トリガーである。
私も一時期使ってみようかな、と考えて風間さんに教わったことがある。
でも私の戦闘スタイルとそんなに変化がなかったから、使うのやめたんだよね。その時の風間さん、ちょっと残念そうな顔してた。
……実はこのオプショントリガー、私の副作用にとって敵なんだよね。
私の副作用は強化視覚。
見ることに特化した私は、見えるものに対してはまあほぼ敵無しなんだけど、見えないものに対しては普通の人と同じ。なので、普段は平気な死角攻撃・不意打ちをされたとき対処できない。
「あ」
三雲君の身体を貫く刃。
それは風間さんが持つスコーピオンだった。
『トリオン供給器官、破壊。三雲ダウン』
この声堤さんかな。
そう思いながらも行われている模擬戦を見る。
……カメレオンって初見殺しな気がする。
だって消えるんだよ?
自分の副作用もあって、初めてこのカメレオン使用者と戦った時、片腕切られちゃったもん。
兄さんとの訓練や、ゲームで鍛えられた反射神経のお陰で片腕で済んだんだよね……。
「訓練室はトリオン使い放題だから、カメレオンによるトリオン消費が気にならないのか」
「そうっすね。でもそれは修にも言える事です」
風間さんはカメレオンを使って姿を隠し、三雲君を奇襲し続ける。
それに加え、風間さんは速い。その二つもあって三雲君は姿を捉えることができないようだ。
「あれがカメレオンか。実際に見たのは初めてだ」
「トリオンを消費して風景に溶け込む。隠密トリガーだ」
「俺ならどう戦うかな」
「カメレオンは確かに強力だ。だが、無敵って訳じゃない。それに気づけるかな」
カメレオンはあくまで視認できないだけで、音を立てれば普通にバレる。そしてトリオン漏れをしていれば、その煙でバレる。
あとは……
「お、あの様子だと気づいたかな?」
「みたいですね」
攻撃するときは解除しないと他のトリガーを使えない。
だけど、不意打ちには持って来いだよね。
でも使用中はトリオンを消費し続けるみたいだから、トリオン能力が低い人は扱いにくいかも。
扱うのがちょっと難しいオプショントリガーだね。
「でも、風間さんには通用しない」
「でしょうね」
カメレオンの弱点など、風間さんが把握してないわけがない。
なんせ風間さん率いる風間隊は、カメレオンを使った隠密戦闘に特化した部隊だ。
それに、菊地原君の副作用もあって全員がカメレオンを起動していても連携が崩れないから、ボーダートップの連携力を誇る部隊である。
弱点など知り尽くしているに違いない。
「うーん、三雲君はまだ経験浅いのかな」
「です。そして弱い」
「そ、そんなはっきり言わなくても……」
「いや、事実だよナマエ先輩。オサムも自覚してる」
自分の実力を自覚している、か。それを分かって風間さんからの模擬戦を受けたのか。
受けた理由は……まあ、普通に考えて経験を積むためかな。
私だったら実力差に怯んでお断りすると思う。
だってストレート負けしたら落ち込む……。
2022/2/22
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