正式入隊日



「あの人は……!」

「A級3位風間隊の風間隊長だ」


どうやら三雲君は風間さんに会ったことがなかったらしい。
有名な人だけどなぁ。

まあA級と聞けばその実力はかなりのものだと分かるだろう。
偶にだけど風間さんに模擬戦の相手をして貰っている。その強さを私は分かってるつもり。


「待ってください、風間さん! 彼はまだ訓練生ですよ? トリガーだって訓練用だ!」

「俺は別にやってもいいよ?」


すごい強気だな、あの子……。
それか、自信があるのか。
いろんな国を渡ってきたと迅さんから聞いている。きっと戦闘に関しては経験豊富だろう。
……兄さんだったらあの子に模擬戦申し込みに行くんだろうなぁ。


「……どうして?」


どうして今兄さんのことを思い浮かべたんだろう。
近界民ネイバーの子と風間さんが対峙しているから?
それとも、さっき京介との会話で兄さんに触れたから?


「……苗字先輩?」

「え?」

「大丈夫ですか? ボーッとしてましたけど……」


私の視界に覗きはいるように現れたのは木虎ちゃんだ。
どうやら自分の世界に入っていたらしい。


「あと、顔色が少し悪いです」

「え、本当? 別に気分が悪いなんてことはないんだけどな……」

「確かに顔色悪いですよ。ほら、そこに座って」

「ちょ、ちょっと京介!?」


京介はこちらに歩いて来たと思えば、私の背中を押して私を座らせる。
そしてその隣に京介は座った。


「折角席があるんですし、座って見ましょう」

「え、見るって何を?」

「アレですよ、アレ」


京介が指を指した方向を見ると、訓練室に三雲君と風間さんが入っていた。……あれ?


「風間さんが指名したのは空閑君? じゃないの?」

「違いましたね」

「何を考えてるんだろう……」


風間さんの狙いはなんなのか。
私に風間さんの考えが理解出来るわけではないので、ただ悩むだけで終わるだけなんだけど。
そう思っていると誰かがこちらに走ってくるのが見えた。

その人物は……


「お、見ていくのか。遊真」

「うん。アラシヤマに許可貰った」


例の近界民ネイバー、空閑遊真君だった。
向こうは私に気づいて、私より明るい赤い瞳でこちらを見た。


「で、そこの人は? とりまる先輩の彼女?」」

「ち、違うよ!?」

「そう、って言えたら良かったんだけどな」

「京介は適当な事言わない!!」


完全にファーストコンタクト失敗した……。
そう思いながら私は空閑君を見る。


「はじめまして。迅さんから聞いてて、君の事は知ってるんだ」

「そうなの? じゃあ自己紹介いらない?」

「そこは君に任せるよ」

「うーん、ニホンでは自己紹介はマナーと聞いてるから、やる。おれは『空閑遊真』。あんたは?」


コテッと首を傾げながら、空閑君は赤い大きな瞳で私を見つめた。


「私は苗字名前。一応S級隊員です」

「さっきも一応って言ってましたよね。一応じゃなくて事実ですよ」

「うー……」

「そうか。アンタがナマエ先輩か」

「知ってるの?」

「うん。迅さんがよく話してた。ボーダーで3人しかいないブラックトリガー使いの1人だって」


そうニヤリと話す空閑君は、明らかに私のことを強い相手と認識しているようで。
……まだ戦ってもないけれど、何となくだけど分かる。
この子、かなりの実力者だ。





2022/2/19


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