殺し屋レオン:序



烏間殿が言っていた通り、事情聴取は朝まで続いた。
防衛省本部に連れて行かれたガストロ達が出した情報と僕が話した情報を照らし合わせながら行われた事情聴取は、それはそれは何度も同じ事を聞かれイライラした。

しかしその慎重な事情聴取のお陰で僕等鷹岡に雇われた殺し屋達は『お咎め無し』と言う事で、容疑は晴れた。
と言うわけで僕は一度普久間殿上ホテルに戻って、彼らの前ではデフォルトである姿…苗字名前の姿に変わる。

因みに此処までの行動は全て防衛省の人間が同伴で行われている。あ、着替えるときは見られてないよ?見られたら困るし。
恥ずかしいという理由では無く、僕の素の顔を見られると困るからだ。


僕の素顔は認知されるワケにはいかない。常に化けの皮を被っていなければならない。……理由?バレちゃったら殺し屋レオンとしての名が穢れちゃうだろ?

性別不明の為、姿を特定する事が不可能。
そして、ナイフを使うその技量はまさに殺し屋の中でトップレベル。
いつ何処から現れるのか分からない神出鬼没な殺し屋……それがレオンだ。


「あら、ナマエじゃない。お帰り。そしておはよう」

「おはようイリーナ。そしてただいま。……というより、なんだその水着は」

「ふふん、見てよナマエ!私の美ボディがよーく分かる水着でしょ」

「そーだな」


現在夕方。
隣には前に見たときよりも更に露出度が上がった水着を着たイリーナがいる。


「アンタは水着着ないの?」

「性別が一発でバレるだろ」

「昨日の昼間、店員に化けてたそうね。あの格好は自分の性別言っているようなものだけど」

「甘いなイリーナ。最近の変装道具は胸も作れるんだぞ」

「え。まさかアンタ、その胸偽物じゃ……」

「お前態と言ってるだろ」

「バレた?」


イリーナは僕の性別が男なのか女なのか分かっている。だが、僕が秘密主義なのを分かって黙って貰っている。
ま、僕が本格的に変装術を取得する前に“友”と言える関係になってしまったから、隠して貰うようお願いせざるを得なかったんだよな。


「ナマエはさ、気を張りすぎだと思うの。そんなに隠さなくたってレオンという殺し屋であると辿り着く人間は少ないわ」

「少ない。その言葉ですでに不可能であると断言できていないじゃないか」

「うっ」

「僕は少しの可能性があるならば全て気にしなければならない」


特に今は一番気を張っていなければならない。


「あれ、苗字さんにビッチ先生。もう起きてたの?」

「あら渚じゃない」

「おはよう、渚。よく眠れたか?」

「うん。苗字さんは眠れた?朝まで事情聴取受けてたんでしょ?」

「僕は寝てないよ。一応まだ監視下なんでね」


そう言って親指で防衛省の人間がいる場所を指す。
あの監視下で寝られるかっての。目線が刺さってイライラする。


「苗字さんはジャージじゃないんだ。みんなジャージ着てるけど……」

「僕は元々依頼で此処に来てるからね。学校指定のジャージを持ってきてる訳ないだろ」


渚とそう話していると、背中から誰かが抱きついて来た。特に殺気を感じなかったので躱さずそのまま抱きつかれたのだが、何か柔らかい。


「おっはよ〜名前」

「莉桜か、おはよう。体調はどうだ?」

「すっごく元気!」


ま、スモッグの作る栄養剤は効果が良いからな。研究室作るまでのその熱意は賞賛に値する。
僕は毒に関してはあまり知識がないからなぁ。毒使って動きを鈍らせるより自分から接近して殺す方が早いもん。


「名前も向こうで遊ぼ〜ぜ」

「仕方ないなぁ……。あまり水近くに連れて行かないでくれよ」

「ちっ、バレたか……」


こいつ、僕の服濡らす気満々だったな……?
確かに服を濡らされるのは困るが、それ以上に困る事があるから水を掛けないで欲しい。


「!?」


女子達のじゃれ合いに付き合っていた時だ。
突然地面が揺れたと思えば、目の前に黒煙が見えている。……あぁ、確かあの場所にターゲットがいるんだっけ?

どのように閉じ込めていたかは知らないが、烏間殿の反応を見ると……


「ヌルフフフ。先生の不甲斐なさから、苦労を掛けてしまいました」


失敗したんだな。
そう脳が処理をした瞬間、ターゲットがビーチに移動してきた。相変わらず速い。


「ですが皆さん、敵と戦い、ウイルスと戦い…本当に良く頑張りました!」

「おはようございます、殺せんせー。やっぱ先生は触手がなくっちゃね」

「はい、おはようございます!では、旅行の続きを楽しみましょうか!」

「はい!」


あれ、そういえば彼らのこのリゾート旅行、2泊3日じゃなかったけ。
そう思い出していると、杉野が「明日の朝には帰るだろ?」とターゲットに言っていた。


「何言っているんですか!先生はほとんど完全防御形態でしたから、遊び足りないですよ!!」

「元気だな……」


ターゲットは高速で分身を作って一人スイカ割りをしたり、砂遊びをしたり、雲で「SUMMER 大スキ」と書いたり……。とにかく遊んでいる。


「苗字さん、はいどうぞ。先生が割ったスイカです!」

「どうも」


高速分身で現れたと思えば、ターゲットは僕にスイカを渡してきた。まあ、僕は貰えるものは貰っとけの精神なのでありがたく貰う。
……おぉ、甘い。


「私も食べた〜い」

「食べかけでいいならいるか?」

「……名前さん、間接キスとか気にしない人?」

「別に気にしないけど」


桃花にスイカを差し出していると、メグがそう尋ねてきた。
なるほどなるほど、メグは間接キスを気にしてしまうタイプか。

隣で桃花がスイカを食べている所を見ていると、遠くでターゲットの悲鳴が聞こえる。どうやら早速暗殺が始まっているようだ。


「一秒たりとも無駄にしない……そうね!時間いっぱい楽しまないと!」

「わ〜い!大賛成!」


メグがそう言うと同時に女子達は体操服を脱ぎ捨てた。と思えば、女子達は下に水着を着ていたらしい。
さっき莉桜が抱きついて来た時、何か違和感あるなぁって思ったんだよな〜。あれは水着だったのか。


「私着てない!!」

「大丈夫だカエデ。僕も着てないから」

「仲間がいた!!」


泣きついてきたカエデの頭を適当に撫でながら、女子達が遊ぶ光景を見つめる。……見つめていたのだが。


「きょ、巨乳……!」

「は?」

「巨乳はイヤー!!」

「はぁ!?」


抱きついて来たと思えばすごい速さで離れた。何がしたいんだ君は……。


「茅野っちは巨乳に対して色々あってね……」

「……あぁなるほど。カエデは胸があんまり大きくな…」

「名前さああああああん!!!」


ひなたの言葉に納得した瞬間、遠くからカエデの叫び声が。それと同時に殺気に似た何かを感じる。……殺意を覚える程に巨乳が嫌いなのか。
……って、この嫉妬のような殺気E組ここに来た時にも感じたんだけど、あの殺気はカエデだったのか……。


「そんなに気になるなら、大きくなる方法知ってるぞ。まずは胸の構造から説明すると……」

「堂々と話さないで!?」


んもう、日本人は恥ずかしがり屋だなぁ。
折角大きくなる方法というか、なりやすい方法を教えてやるっていうのに。


「そんな胸に自信がある名前チャン?折角の機会だ……そのおっぱい揉ませろー!!」

「ついでに脱がせてやるー!!」

「はぁッ!?ちょっと待て、脱がすのはダメだ!!


胸を触られるのはまだ回避できる。だが服を脱がされるのだけはダメだ!!性別がバレる!!!


「待て待て待てー!!」

「名前〜!待って〜!!」

「可愛く言ってもダメだぞ桃花!そして、手を構えたままこっちに来るな莉桜!!」

「面白そうだから私達も参戦するー!」

「増えた!?」


くそう、砂浜って走りづらいから苦手なんだよ!
あの手この手で何とか逃げ回るが、人数が多いのはズルい!!


「捕まえた!」

「くっ、僕を捕まえたことは褒めてやろう。だが、そこから逃げる方法はまだあ…」

「片岡さーん、そのまま名前を水の中へ招待してー」

「おい莉桜!!」

「掛け合いっ子しよ、名前ちゃん!」

「服濡らす気満々だな!?日菜乃!!」


……と、女子に捕まって足元まで水に浸かっていた所。


「わ〜い!先生も混ぜてくださ〜い!!」


ピンク色に変色したターゲットがこちらに走って(?)きた。
完全に浮かれているな……。


「いいよ〜!」

「ヌルフフフっ、ヌルフフフっ、ヌルフフ…ギャーーーーッ!?」


あ、触手って水が弱点なんだったな。
そんな事を思いながら叫ぶターゲットを見つめていた時だ。


「俺も混ぜて〜〜〜〜!!」


遠くから全裸の岡島が飛んできた。


「しねえええええ!!」

「くっさ〜」


全裸で飛び込んできた岡島は、目の前で女子達にボコられている。


「なんだよ、遊んでやれば良いじゃないか」

「前から思ってたけど名前さ、感覚かなりバグってるよ!!?」


え、そうかな……。
僕は至って普通だと思うんだけど。


「名前様っ、俺と遊んでくれるんですか?!」

「僕はそのままで構わないけど、ボコられたくなければ服か水着を着たらどうだ?」


「名前様って……うわぁ……」と引いているメグ。別に呼び方は人それぞれだろ。そんなに引いてやるなって。

というより岡島に目線が向いている間に海から出て……。
気配を薄めてその場から撤退しようとした瞬間。


「逃げようったってそう簡単にさせないぜ?」


肩に置かれた莉桜の手。
くそぅ……動けば音が出るし、小さく波が立つからそれらでバレる!だから水辺は苦手なんだ!!


「待てー!!その服脱がせろー!!」

「捕まってたまるか!!」


こいつ本当に女なのか!?揉ませろとか脱がすとか……男勝りだな!?
しかし捕まるわけにはいかない!性別がバレるのだけはダメだ!!


「逃げ足速いなこのー!!」

「しつこいな君は!?」

「わああああ!苗字、ぶつかッ」

「えっ」


莉桜を見ながら逃げ回っていたとき、横から聞こえた声に反応したときは既に遅し。
何かに衝突して倒れ込んでしまった。


「いってて……何なんだ」


痛いし重いし!僕痛いのは嫌いなんだけど!!そう思いながら上に乗っている奴を見上げた。


「わ、悪い苗字……ビッチ先生から逃げてたらぶつか…って……」


僕の上に乗っていたのは磯貝だった。見上げた磯貝の顔が段々と赤くなっていく。……何を赤くなっているんだ?
……ってなんか胸を触られている感覚が……。


「わあああああっ!?」


叫んだと思えば、磯貝はものすごい速さで飛び退いた。顔を赤くして。


「ごめん!!ほんっとうにごめん!!!」


高速土下座をして誤り倒す磯貝。そして彼の後ろにいる男子達は磯貝を弄り倒している。特に前原。


「別に胸を触られる事には慣れてる。気にするな」

「慣れてる!?」

「ああ。まあ依頼の内容上、触られることもあるし。あと、君達の後ろにいる女とか」


高速土下座をしていた磯貝と、数名の男子ズの顔が一気に無表情になる。ギギギッと効果音がなっているような動きで首を回すと、そこには何故か怒っているイリーナ。


「待ちなさい、ガキ共ーーーー!!」


彼奴なんで怒ってるんだ……?そんな事を思いながら逃げ回るイリーナを見つめていると、背後から音が聞こえた。
振り返るとそこにはターゲットが。


「苗字さん。改めて昨日はありがとうございました」

「いいよ。それに、もう終わったことを何回も言わないでよ」


色々思い出したくないこともあるし……。
その事は口に出さずに、心の中にしまっておく。


「苗字さんはこれから依頼ですか?」

「そう。ターゲットが死んでないことを確認したし、準備もしないといけないしそろそろ向かうよ」

「いつ帰るんです?」

「今の所、ターゲット達が帰った次の日かな」

「じゃあその日に家庭訪問しますね!!」

「えぇ……うん。分かった」


まあ家の場所は学校側に提出しないといけないから知られてはいるけど……こうなると別の拠点の場所が知られていそうで怖いな……。


「それともう1つ」

「?」


その場から去ろうと思い背を向けた瞬間、ターゲットが真剣な声音で僕に声を掛けた。
後ろを振り返ると、表情は一切変わってないのに何処か真面目そうな真剣そうな…そんな雰囲気を纏ったターゲットと目が合った。


「必ず生きて帰ってきなさい。そして、元気な姿を二学期で見せて下さい」

「それは夏休みの課題とやらかな?」

「そうです!苗字さん限定の課題です!」


課題…ねぇ。


『ナマエ、お前にこの技を教える』

『いつまでも怖がっていては、××の名はあげられないよ』


……こんな簡単な課題でいいのか。
簡単すぎるな。今まで与えられた課題に比べれば、かなり。


「待っていろターゲット。僕はそう簡単に死なないからさ」


向こうで車を用意して待っていた防衛省の人間の元へ歩く。
さて、どうやって殺そうかな。
頭の中で依頼の内容を思い出しながらその場を去るのだった。



殺し屋レオン:序 END

next:あとがき(仮)





2021/04/03


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