殺し屋レオン:序
side.赤羽業
「レオン、だと……!」
「待ってよ、それじゃあ……!」
聞こえた名前。その言葉に周りが驚きの声をあげる。
「名前……?」
それは俺も例外では無く。
鷹岡の前に立つあのプラチナブロンドの男が名前だって……?
「何の真似だ、レオン!!」
烏間先生が声を荒げたと思えば、銃を名前に向けた。……その瞬間だった。
「ッ!?」
発砲音と、手すりに当たった弾。……そう、名前が発砲したのだ。
向こうからここまで距離はあるし薄暗い。なのに名前は正確にその場所を狙って撃ったのだ。それもこちらをはっきり見てではなく、横目だけで。
「……依頼人の話は終わっていません。邪魔をしないで下さい」
それに今、名前は実弾の入った銃を片手で撃って見せたのだ。俺達の前で銃を構える烏間先生でさえ両手で構えているというのに。
俺達はエアガンを使っているから片手でも平気だ。しかし本物の銃は撃った反動が大きく返ってくるはず。もしかしたら銃の種類でその反動とかも変わってくるのかもしれない。
それに、片手撃ちは両手撃ちより正確な位置を狙うのは難しい。エアガンでもその感覚は変わらないはずだ。
あの細身のどこにあの反動を受けきれる力があるのだろうか。
「名前……」
こちらを見下ろす名前の目は、まだ数日間ではあるが見た事の無い程に冷たかった。……これがレオンの時の名前の姿。
顔も声も苗字名前としての面影がない。……本当にあれは、あの人物は名前なのだろうか。
「いつの間に……。全く気づかなかった……!」
「音を立てずにここまで登ってきたんだろう。……こちらが気づかない程に」
「そんな事できんのかよ?この階段鉄骨製なのに、どうやって音を立てずに登れんだよ!」
確かにこの階段は鉄骨製で出来ている。だからいくら意識しても音が出てしまうはずだ。それに加えて、ここはかなり高い位置だから風は強いし、いくら名前が速いと言われていようが思い通りに走れないはず……。
そもそもヘリポートへ続く階段は壊れている。行くとしても登るくらいしか方法がないはず……。
名前はどうやって俺達に気づかれずにあの場所へ移動した?
「本来暗殺者というものは不意打ちや油断と言った”隙”を狙い、一撃でターゲットを仕留める。私達に気づかれないようにここまで登ってくるのも、苗字さんには……暗殺者にとっては”出来て当たり前”の範疇なのかもしれません」
「それじゃあ、渚がいる場所まではどうやって……」
「それはただ一つ……恐らく彼女はこの距離を跳躍したのでしょう」
何その技……!人間業じゃないじゃん!
俺達だって訓練で普通の人よりは動けるさ。それに名前は俺達よりずっと経験があるし、有名らしいし……そう言われるまでの実力はあると認識はしてる。
それでも、ここからヘリポートまでかなり距離がある距離を飛び越えられる?出来たとしても飛び越えられるまでの助走距離も、速さも必要だ。
だったら尚更、俺達が気づいててもおかしくないハズじゃん……!
「私達を助けてくれたリンさんが……名前だったなんて気がつかなかった……!」
「でも、どうして鷹岡先生の味方に付くような真似を……」
「それはあの暗殺者達と同じでしょう。……依頼されたから、その話を受けた」
「依頼って向こうがお願いしてくるんだろ? なんで彼奴受けてんだよ!」
「それは私にも分かりません。……彼女が何を考えて鷹岡先生の話を受けたのか。本人に聞くしかありません」
名前は鷹岡と面識はあるはずだ。あの人がE組に来た初日に、短い時間だったけど対面している。
渚君が鷹岡を追い出した時、俺はその場にいなかったんだけど…どうやら名前も渚君と鷹岡の暗殺を見ていたそうだ。
だから分かっているはずなんだ。鷹岡が渚君を狙っていた事も、何をしようとしていた事も。
……分かっているハズ、なんだ。
「しかしこれは立派な契約違反だ。……あれが終わった後、苗字さんには然るべき罰を下さなければならない」
「そんな……!」
「烏間のヤローの言う通りだ。カルマ、お前が彼奴を気に入ってるのは分かってるが、目の前で起こってる事は事実だ」
「……っ」
烏間先生の言葉は最もだ。そして、寺坂が言っている事も正しい。
鷹岡の味方に着いた。生徒に被害を加えた人物の味方についているのだ。これは俺達に対して立派な裏切り行為だ。
事実なのに俺は……名前をそうと認識できなかった。
烏間先生の言葉を受け入れられなかった。それは心のどこかで名前を信じているからだ。
おかしいな……俺、こんな簡単に人に心を許すような人間じゃなかったはずなのに。まだ一ヶ月にも満たない日々を過ごしただけでこんなにも取り込まれている。
それに、どこかで名前を裏切り者だと認識できないのは……はっきりとした根拠がないのに名前が何か企んでいるように見えてしまうからだ。
だってバーフロアで女子達を助けたという事実があるんだもの。
……そのことを考えたら、余計に名前を悪として見られなかった。
「苗字さん、どうしてこんな事を……」
「苗字?一体誰の事です?」
名前は渚君の言葉にこう返答した後、一瞬で距離を詰めた。
そして___渚君の横腹めがけて蹴りを入れた。
2021/03/31
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