殺し屋レオン:序

side.潮田渚



みんなにウイルスを盛らせた張本人は、僕達の元体育教師___鷹岡先生だった。


「屈辱の目線と騙し討ちで突きつけられたナイフがよォ……頭ン中ちらつく度に顔が痒くなってなァ!夜も眠れねェんだよ!!」


現在、ヘリポートへ繋がる屋上
鷹岡先生が語るのは、E組を去った後の事。


「落とした評価は結果で返す!受けた屈辱はそれ以上の屈辱で返す!特に潮田渚!!俺の未来を穢したお前は絶対に許さん!!」


向けられた人差し指。
……そして、『背の低い生徒』を要求したのは僕を狙っていたからだ。


「へぇ?つまり渚君はあんたの恨みを晴らす為に呼ばれたわけ?その体格差で勝って本気で嬉しい?俺ならもっと楽しませてやれるけど?」

「イカれやがって……!テメェが作ったルールの中で渚に負けただけだろーが!言っとくけどなァ、あん時お前が勝ってようが負けてようが俺らテメェの事大っ嫌いだからよ!!」

「ジャリ共の意見なんか聞いてねえぇぇ!!俺の指先でジャリが半分減るって事忘れんなあぁぁ!!」


カルマ君に続き寺坂君も鷹岡先生にそう言う。
しかし気に触ったのか、こちらに向かって脅しと呼べる言葉を怒鳴りつける。


「……チビ。お前一人で登ってこい。この上のヘリポートまで」


鷹岡先生は治療薬が入ったケースを持ったままヘリポートへの階段を登っていった。


「渚ダメ……行ったらっ」

「行きたくないけど……行くよ」


僕を止める茅野に殺せんせーを預ける。
後ろから鷹岡先生の怒鳴り声が聞こえる……かなり興奮状態だ。危険過ぎる。


「あれだけ興奮していたら、何するか分からない。話を合わせて冷静にさせて……治療薬を壊さないよう渡してもらうよ」

「渚君……」

「渚……!」


僕が行かなきゃいけないんだ。
みんなを背に僕はヘリポートへ続く階段を…鷹岡先生が向かった先へ登った。



***



ヘリポートへ着くと鷹岡先生は仁王立ちでそこにいた。治療薬が入っているケースは鷹岡先生のすぐそばにある。
そして、僕の真下には___本物のナイフが置いてある。


「鷹岡!!」

「おぉっと、勘違いするなよー?これは俺と潮田渚君との大切な時間を邪魔されない為だ」


見せつけるように持っていた起爆スイッチを、鷹岡先生は迷う事なく押した。
その瞬間、爆発音が響いた。


「!!」


振り返った先に映った光景は、ヘリポートと階段を繋ぐ架け橋が破壊されていた。
完全に遮断されてしまったのだ。


「これでだーれも登ってこれねぇ……俺のやりたい事は分かるなァ?___この前のリターンマッチだ」


鷹岡先生はあの日のリターンマッチを要求してきた。しかし僕はそのつもりでここへ来たわけじゃ無い。


「待って下さい鷹岡先生!僕は戦いに来たわけじゃないんです!」

「だろうな?この前みてェな卑怯な手はもう通じねェ。一瞬で俺に殺られるのは目に見えてる」


鷹岡先生がこちらを見る。……視線が合う。


「だがなァ、一瞬で終わっちゃア俺としても気が晴れねェ。だから?戦う前にやることあってもらわなくちゃあなァ?」


やること?……鷹岡先生は何を僕に求める気だ?


「___”謝罪”しろ。土下座だ」


こちらを見下すような目で、ニヤリと浮べた笑みでそう言葉を放った。
___ここで指示を聞かなければ、薬を爆破される。
僕は地面に正座で座り、鷹岡先生を見つめながら口を開いた。


「僕は…」

「それが土下座か!馬鹿ガキがァ!!頭こすりつけて謝ンだよォ!!!」


ドンッと鷹岡先生が足を踏みならし、僕へ怒鳴りつける。……要求を呑もう。薬を渡して貰うためだ。
僕は言われたとおり、土下座して口を開いた。


「僕は実力がないから、卑怯な手で奇襲しました。ごめんなさい」

「おー?その後で偉そうな口を叩いたよなァ?『出て行け』とか!!」


頭にかかる重み。……鷹岡先生の足が僕の頭に乗っているんだ。


「ガキの分際で大人に向かって!生徒が!!教師に向かってだぞォ!!?」

「ガキのくせに、生徒のくせに…大人の人に、先生に生意気な口を叩いてしまいすみませんでした。本当にごめんなさい」

「よぉ〜し、漸く本心を言ってくれたなァ?父ちゃんは嬉しいぞォ〜?」


上から笑い声が聞こえ、頭に乗せられていた足が退かれる。
顔を上げて鷹岡先生を見つめた……その時だ。


「だが……俺はまだ満足してねェんだよ!!」


まだ要求してくるのか……!次は何を……


「来い。……仕事だ」


鷹岡先生が耳に手を当てそう声を掛けた。……仕事?一体誰に___


「はい、依頼人」


後ろから聞こえた声。
……待って、道はさっき爆破されてここに登って来られないハズじゃ……!


「リターンマッチの前に前座……エキシビションマッチだ」


後ろを見ると、そこにいたのは女子達を助けてくれたという男性……リンさんがいた。
先程まで来ていたスーツのジャケットを脱ぎ、ベスト姿と少しだけ動きやすい格好をしている。


「こいつに勝てたら治療薬を返してやってもいいぜ?だけど勝てるかなァ?」

「……?」

「知ってるか?こいつ有名な暗殺者らしいぜ?」


有名?
鷹岡先生の言葉に首を傾げる。

鷹岡先生の前まで移動し、こちらを振り返ったリンさんの澄んだ青い瞳と視線が合う。


「自己紹介してやれ」

「はい、依頼人」

「! その呼び方は……!」


遠くで烏間先生の驚いたような声が聞こえた。
もしかしてこの人も、前にロヴロ先生が言っていた連絡の付かなくなった殺し屋なのだろうか?いやしかし、あの人が言っていたのは”3”人だったはず……。


「では自己紹介を。私はリン……というのはその場で考えた偽名。殺し屋としての名は___レオンと申します」

「!!」


頭が真っ白になった。
だって、その殺し屋の名前は……!


「苗字…さん……?」


ついこの間E組にやって来た殺し屋……苗字さんのコードネームだからだ。
目の前にいるこの男性が、苗字さん……!?

驚く僕とは対照的に、苗字さんは微笑を保ったまま見つめていた。





2021/03/31


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