殺し屋レオン:序

side.潮田渚



「ごほ……ッ!」


横腹を思いっきり蹴られた。なんてパワーだ……!
僕は横腹を抑えながら、目の前にいる男性……レオンと呼ばれていた人物を見上げる。


「なんで……なんでこんな事を……!!」


レオン…苗字さんの背後で鷹岡先生が高笑いをしている。
どうして鷹岡先生の味方なんて……そう思っていた時だ。


「___聞け、渚」

「え……?」


小さかったけど、確かに聞こえた声。それは男性の声では無く……聞き覚えのある苗字さんの声だった。
そうか……苗字さんは自在に声を変えられる。瞬時に自分の声に切り替えることなんて造作でもないんだろう。

これではっきりした。目の前にいるこの男性は苗字さんであると。
でも今、僕の名前をはっきりと呼んだよね……?気のせいじゃ…


「一度しか言わない。……僕とここで芝居をしろ」

「! ……芝居?」


僕がそう聞き返した瞬間、身体が地面に倒れる。その上に苗字さんが乗っている。……押し倒されたのだ。
それと同時に彼女の手にあるのは___本物のナイフ!


「っ!」


彼女の腕を掴み、ナイフが刺さるのを防ぐ。
……間一髪。と言えたらいいけど、今どう見てもゆっくりと振り下ろされていた。もしかして僕にナイフを掴ませるために態と……?


「単刀直入に言う。……僕を倒せ」

「そんな無茶な……!それに、急に言われても」

「理由は後で話してやる。それに……僕では彼奴を止められない」


鷹岡先生を止められない?苗字さんでさえ?どういう意味だ?軍人だから勝てないって事?
説明が欲しいけど、この状況でゆっくりとして貰えるとは思えない。


「ぅ……」

「この僕が自ら恥を晒してやると言ってるんだ。何、手加減はする。だが君は手加減をするな。……さ、まずは足で僕の背中を狙え」

「……わかった!」

「その後はアドリブだ。……上手くやれよッ!」


本来なら苗字はこんな攻撃躱してしまうだろう。
苗字さんが再びナイフを振り上げる。……この状況を脱するには、彼女の言う通りにするしかない!


「っ!?」


膝を使って苗字さんの背中へ攻撃する。その次にナイフを奪う。
授業でやった事があるので、作った隙を逃さないで苗字さんからナイフを奪い、遠くへ放った。
膝蹴りした衝撃でこちらへ倒れてきた苗字さんを突き飛ばし……


「!?」


素早く背後に回って、後ろを取る……!


「なッ……!」


僕はクラスの中であまり力がない。だからこうして苗字さんを拘束できてるのは、苗字さんが手加減をしてくれているからだ。


「……眠ってて貰うよ」


見様見真似だけど、首辺りを強く刺激すれば気絶させられる。ただしこれは下手すればとんでもない事になる。
だからこれは僕と苗字さんの演技力にかかっている!


「う……っ」


苗字さんがこちらへ倒れてくる。……あれ、全然重くない。身長があるからそれなりの体重はあるはずなのに……これは低体重の範疇じゃない!


「嘘だろ……!?レオンがやられた!?」


苗字さんを安全な場所へ……と言い切れないけど、これから起こるリターンマッチに巻き込まれない場所へと移動させる。
失礼なのを承知で、所謂お姫様抱っこで抱えたけれど一切話しかけてこなかったな。そこまで演技しなくてもいいのに……。


「最強の殺し屋と並ぶと言われているレオンが…こんな……!」


まるでお気に入りの玩具を壊されたような反応をする鷹岡先生。この様子から分かる通り、僕等の”芝居”に気づいていないようだ。


「……約束通り、治療薬を返してくれますよね?」


さぁ、ミッション達成までもう少しだ!





2021/03/31


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