期末の時間
side.赤羽業
俺?俺は赤羽業。業って書いてカルマって読むんだ〜。
……まあ俺の事はどうでもいい。
二回目になるシロとイトナの殺せんせー暗殺計画。シロに上手く嵌められた寺坂の前にいたのは、レオンだった。
シロが自分の助手だと言っていたからてっきりそうなのだと思えば、まさかの他人同士。助手というのはあの場でシロが放った嘘だったという。
その日から数日後、宣言通りレオンはE組にやってきた。
今までマントで隠れて見えなかったその素顔はまさかの女性。本人がいうには性別は女性じゃ無いとか何とか言って、自分の性別を特定されたくないみたいだけど。
ビッチ先生が言うには名前は俺達と同い年でありながらプロの殺し屋だという。詳しい話は教えてくれなかったけど……『声』『変装』『狂人』という単語から察するに、かなり人としてはいかれているんだろう。
それでも……
『君達さ、僕が誰か分かってるのかい? 殺し屋だぞ? 怖いとか思わないわけ?』
自分がかなり異質な存在である事を自覚していたりするところは少しだけ人間味を感じた。
あと、付き合いが長いビッチ先生の呼ばれ方に爆笑したりとか。普通に見ていれば俺達と変わらない普通の子供に見える。
……でも。
『イリーナ。ナイフってのは……こう使うんだよ』
一切迷いの無い動作。ビッチ先生の首に当てられた対殺せんせー用のナイフじゃなかったら、今頃ビッチ先生の首は斬れていただろう。
殺せんせーほどではないけれど、速い動作だった。きっとそれは殺し慣れているからこその動きだ。
しかし本人によるとそれはまだ実力の一部を見せているだけだという。
そんな彼女がやってきたのは期末テストが近い日だった。
名前はテストの事を聞くと『受ける必要がない』とか言っていた。その理由は『その知識はすでに身についている。今更確認する必要などない』というものだった。
『何なら取って見せようか? オール100点』
しかも堂々と全部満点取りますという宣言までした。椚ヶ丘中学校がどんな学校だと言われているのか分かっての発言なのだろうか。
『随分と自信があるんだね〜』
『自信は全て行動に表れる。意識するしないでは変わるものなんだよ』
初めて見たときからずっと思っていたが、名前はずっと自信ありげな態度を見せていた。俺達に対しても上から目線。恐らく見下されている。
それなのに渚君達に勉強を教えてあげたりクラスメイトとくだらない話をしていたりと…よく分からなくなってきた。見下してるなら、馬鹿にしてるなら関わらなきゃいいのに。
俺は名前とはクラスメイトより先に関わりを持っている。まあ一方的に話しかけて逃げられただけなんだけど。まああの時はまだ“シロの助手”という意識だったから今みたいに好感を持てていなかったけど。
だから余計に苗字名前という人物が分からなかった。
***
テスト返却日
名前は本当に実現させた。五教科全てオール100点という成績を叩き出したのだ。……それに対し俺は総合13位。
何が違う。俺と変わりなかったはずだ。……恐れられる殺し屋と言われているだけあって、『天才』と呼ばれる類いの人物なのか。そう思っていたのに。
『僕が何でも出来る人間だと……君はそう思っているんだろう』
『そうなんじゃないの?』
『違うさ。一部の例外を除いて、人間は初めから何でもできる訳じゃない』
名前は語り出した。
自分には才能がない。こうして力があるのは全て『努力』して勝ち取ったからだと。しかも覚えが悪い方だとも言った。正直信じられなかった。あれだけの成績を出していたから、余計に。
『人間は忘れる生き物だ。だからメモをし、残す。過去に記した事を思い出す為にはそのメモを見直す。……この行為、学生をやってる君なら分かるだろう?』
『ふく、しゅう……』
『そう、復習さ。勉強に必要なのは予習・復習。当たり前の行為だよね〜?』
まさか殺せんせーとの会話を聞かれていたとは思わず、先程のやり取りを思い出してしまった。はっきり言おう、聞かれていた事がすごく恥ずかしかった。顔が熱かったので恐らく顔が赤くなっていたのだろう。
『君が中間テストの時、どんな成績をとっていたかは知らない。知る興味もない。……でも、負けた方が恥ずかしいのは確かだろう?』
『ま、まぁ……』
『君は予習・復習の行為が恥ずべき行為だと認識しているが、そうでもないさ。見られたくなければ、隠れてやればいい。別に人の目に着く場所でやる必要はない』
この人は俺達の目の前でやっているわけじゃない。俺達の見えないところで努力しているんだ。
正直言って努力とかそういうのをやっていることがかっこ悪いと思っていた。自信満々な姿しか見た事がない名前はかっこよく見えた。だけど、そんな彼女も裏では努力をしていたのだ。だからこそ今回の五教科オール100点という成績を出す事ができたのだ。
『大丈夫さ。テストはまだあるんだろう?その時にリベンジするといい。今度はきちんと勉強して、ね?』
無意識に唇を噛んでいた俺に細くて長い綺麗な指が当てられる。
こうやって美を保っているのも、努力しているからなんだろうか。そう思うと苗字名前という人間が遠い人間だと思わなくなってきた。
そして、この余裕綽々とした表情を崩してやりたいと思うようになってきた。
『今度は僕に勝てるといいね?』
『……そうだね。次こそは……アンタを超える』
気づけば俺は名前にそう言っていた。
目の前にいる人物は『その言葉、覚えておくよ』と言ってニヤリと笑った。
その余裕な笑みを俺が崩してやる。
……そう思っていたんだけど。
『重要なのは五教科の国語・社会・英語・理科・数学!実技教科は用語ではなくその実技ができるかどうかが重要なんだ!紙でやることじゃない!!』
『『『認めた!!?』』』
まさかこんな早くに崩れた表情を見れるとは。残念ながらその表情を崩したのは俺では無い。クラスメイトである。
どうやら実技は勉強していなかったようで、教卓の前にいる寺坂達に殺せんせーと共にギャーギャーと言っていた。変な所で団結しちゃって。
そう思っていると、前の席の千葉がこちらを振り返って前に指を指した。何か言ってやれって事ね。オーケーオーケー……言ってあげるよ。
『なんでって……失礼じゃね?殺せんせーと“名前”?五教科最強の“家庭科さん”にさァ?』
俺の発言に盛り上がるクラスメイト。
しれっと名前で呼んでみるが名前は気にする素振りなし。なのでもう一度呼んでみる事に。
『名前とリゾート満喫したかったのに……』
『急に彼女みたいな事言わないでくれるかな』
ジト目で俺を見る名前。今度は聞こえなかった、なんて事はないよね?
『おやおや〜?やっぱりカルマ君と名前さんはできて』
『ないけど?』
殺せんせーの言葉を遮り、殺気を放ちながら否定する名前。そこまで嫌がられるとは思わず、悲しむどころか……むしろ面白くなってきた。
『それに……僕の隣にいていいのはあの人だけだ』
『あの人?』
『苗字さんにはそう思う人がいるんですね』
『そうだよ。僕が唯一心を許している人だ。……だから、その手に持ってるメモ帳に僕と“カルマ”の名前を書かないでよね』
『!?』
しれっと呼ばれた自分の名前。
ちらっとこちらを横目で見た名前と目が合った。チロッと出した赤い舌をみるに、どうやら態とらしい。
その態度、表情を言葉で表すならば『小悪魔』だ。
***
「ヌルフフフ。カルマ君、何がとは言いませんが赤いですよ」
「うるさいっ」
名前が教室を出て数分後。
殺せんせーから飛んできた言葉だ。
「不意打ちはずるい……」
あーダメだ。絶対顔赤い。顔を上げたくない、見られたくない。
机の上にゴンッと頭をぶつける。
「これは苗字さんに脈ありですね!カルマ君!!先生は応援してますよ!!」
「うるさい黙って」
「赤面姿のカルマはレアだな!!」
「カルマのンな面見れるなんて、さいっこうだぜ!」
「寺坂、後でしばく」
「なんで俺だけ!?」
うるさい寺坂は絶対絞める。
……きっと自分が去った後、教室でこんな事が起こってたなんて、名前は気づいてないんだろうな。
期末の時間 END
2021/03/27
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