期末の時間
授業開始のベルが鳴り響く。
僕の机の上には散乱したテストの解答用紙。
……100点なんてのは当たり前だ。
僕は殺し屋界で五本指に入る程に恐れられる殺し屋。
人に恐れられるのが当たり前、全て出来て当たり前。
だけど___
「まさか五教科以外の点数が……」
「五教科総合一位の弱点が……」
……こそこそ言わなくても、全部聞こえているぞ。
言いたい事があるならはっきり言え!!
「重要なのは五教科の国語・社会・英語・理科・数学! 実技教科は用語ではなく、その実技ができるかどうかが重要なんだ!紙でやることじゃない!!」
「「「認めた!!?」」」
そう。
僕は五教科は満点だったが実技教科は散々な結果だったのだ。
大丈夫だ、平均70点だ。基本のことは覚えているし、所詮紙の上の問題だ。問題無い。
と言うより……
「なんで寺坂と吉田、村松と狭間は家庭科で100点取っているんだよ!? その努力は五教科につぎ込めよ!!」
「そうですよ! 苗字さんの言う通りです!! それに、家庭科なんて…」
ターゲットもそう思ってくれてたんだね!味方がいて嬉しいよ!!
いつものポーカーフェイスが崩れているって?うるさい、君達の所為だ!!
というより、E組に来てからまともに表情を保てていないぞ僕……!
「なんてって……失礼じゃね?殺せんせーと“名前”?五教科最強の“家庭科さん”にさァ?」
赤羽の発言に盛り上がるクラス。
遠くから倉橋の「合計触手10ぽーん♪」と嬉しそうな声が聞こえる。ターゲットの顔は酷いくらい怯えている。これが顔面崩壊って奴か。
「それと殺せんせー。これはみんなで相談したんですが、この暗殺にA組との賭けの戦利品も使わせて貰います」
「……what's?」
処理が追いついてないって顔だな、ターゲット。
あと、その話僕は聞いてないぞ磯貝。
***
「さて、苗字さん。君には触手五本を破壊する権利がありますが……」
漸く落ち着いたターゲットが、僕に予約済みと書かれた旗が刺さった触手を見せびらかす。
「あぁ、そのことなんだけど……勿論、僕パスで」
周りから「え?」と言いたげな視線が刺さる。
一瞬にして視線が集まったな。相変わらずの団結力。
「テスト前にも言ってたけど、僕はその日依頼が入ってるから行けない。その触手の権利は各科目の学年二位に譲るよ」
「となると、その権利を得るのは磯貝君と奥田さんですね」
「うん。そうなると数学と国語の分が消えちゃうけど、元々そういう約束だからね」
「どうしても行けませんか?」
「無理だって言ったでしょ」
ターゲットはどうしても僕を連れて行きたいらしい。
こっちは仕事なんだけど。
「……分かりました。君の意思は固いようですから、その話を受け入れましょう」
「となると、合計7本になるのか」
「そうなりますねぇ。……いや7本でもまずい事に変わりないんですけど!?」
ターゲットがどう思おうと僕には関係ないし〜。
そう思いながら机の上に散らばったままの答案用紙を纏める。
「本当に行かないの?リゾート」
「行かない。さっき言っただろ」
もうこの質問何回聞いて答えたんだろ僕……。
そんな事を思いながら、尋ねてきた赤羽に何回目になるか分からない回答を返す。
「名前とリゾート満喫したかったのに……」
「急に彼女みたいな事言わないでくれるかな」
急にどうした赤羽。
そして近い!!馴れ馴れしい!!お前も中村と同族か!!
「おやおや〜?やっぱりカルマ君と苗字さんはできて」
「ないけど?」
僕渾身の殺気を出すと、ターゲットは簡単に大人しくなった。
「それに……僕の隣にいていいのはあの人だけだ」
「あの人?」
赤羽が首を傾げながら、僕の発言をオウム返しする。
「苗字さんにはそう思う人がいるんですね」
「そうだよ。僕が唯一心を許している人だ。……だから、その手に持ってるメモ帳に僕と“カルマ”の名前を書かないでよね」
「!?」
さっきからしれっと僕の名前を呼ぶ君に“お返し”だ。
その意味を込めてちらっと名を呼んだ本人を見ると、顔を赤くした赤羽がそこにはいた。
「分かりました……にゅやッ!?苗字さん、今カルマ君の事を名前で……」
「さあて、何の事やら」
ターゲットに適当に返事をして、僕は纏めていた荷物を手に取る。
そしてそのまま後ろの扉に向かって歩き出す。
「じゃ、そう言う事で」
「いやいや苗字さん、まだ終わってな…」
「さよーなら、ターゲット」
ターゲットの言葉を遮ってさよならの挨拶を口にし、教室を後にした。
***
触手の本数の奴
苗字:5
中村・寺坂・吉田・村松・狭間:1
という計算です
2021/03/27
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