ビジョンの時間
ずっと前から思っていた事だが、自分の正体を隠す為にマントを着用していると空気が篭もる事もあって体温が上がってしまう。
簡単に言ってしまうとマジ暑い。
「暑い……マジで暑い」
つい本心が口に出てしまった。
僕だって人間だ。自分の身を隠す為とはいえ、この時期にマントを着用するのは流石に暑い。
「何か聞こえませんでしたか?」
「え?」
「『暑い……マジ暑い』って聞こえました」
「それみんな言ってるよ?」
「いえ、上から聞こえたので」
「あっはは!殺せんせー、動物の言葉が分かるの?」
ターゲットの奴、鼻だけじゃなく耳も良いのかよ!?
これは……バレていない、って事で良いのか?
においでバレる事はないはず。何故なら、今は人が密集しているため様々な人間のにおいがある。その中に僕のにおいも紛れるはずだ。だからバレないバレない……。
現在僕はいる場所は3年E組の校舎がある裏山にいる。
僕は木の枝に乗って、ターゲット含むE組のメンバーが何処かへ向かっている光景を見下ろしている。
先程の会話はターゲットと、ターゲットの近くを歩く潮田渚と茅野カエデ、赤羽業である。
「……通気性のいいマントを探すか」
今使っているのも結構良い素材の奴なんだけどなぁ……。
まあ場所が問題、って事もあるだろうけど。だってこんな山奥絶対涼しくないよ。
うっかり口に出してしまわないよう意識しながら彼らの後を尾行した。
***
水のにおいがした。
彼らの行き先が分かってしまった僕は途中から尾行をやめ、そのにおいが強い場所へと先回りした。
「……なるほど、水をせき止めて擬似的なプールを作っているのか」
目の前のものを見てぶつぶつと感想を零していると、ワイワイとした声が聞こえた。
これ以上此処にいると見つかる。
近くの木に飛び乗り、再び様子を観察する。
「……いないな」
ひゃっほーい!やらキャーと言った騒がしい声が響く中、ある人物を探す。
……おっ、いたいた。この場に似合わない制服姿の人物が。
周りとは少し離れた場所にいた人物……『寺坂竜馬』の背後に降りる。
「寺坂竜馬」
「!……あんたか、レオン」
彼に何の用があるかというと……シロに頼まれてある“物”を渡すよう使わされたって訳だ。
……僕は宅配業者じゃないんだけど。重要なものなんだから渡し忘れるなよ。
持っていたスプレー缶を差し出す。
「これを」
「あァ?……んだ、これ」
「ターゲットの粘液を放出させるスプレーだそうだ。シロが渡し忘れたそうでな、届けに来た」
彼に向かってスプレー缶を投げると、寺坂竜馬は難なくキャッチした。
握るスプレー缶を見てニヤリと笑い、彼はこちらを見た。
「決行日は分かっているな」
「分かってるよ」
「今夜はその下準備もある。忘れるなよ」
これでシロに言付けられた事は言った、かな。
用は済んだ。こんな暑い所にいたら溶けちゃうよ。
「じゃあ、ちゃんと伝えたからね」
その言葉を最後に僕はこの場所を離れた。
向かう場所はシロがいる場所だ。
2021/01/04
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