才能の時間
鷹岡が取り出したナイフを見て、自然と口元がニヤけるのを感じる。
殺し合いをさせるのか。へぇ、面白い。
「本物のナイフだと……!?よせ、彼らは人間を殺す訓練も、用意もしていない!!」
「安心しなァ、寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だし、これ以上のハンデはないだろう?」
これが鷹岡の本性か。
あの狂気……嫌いではない。
「さあ烏間、一人選べよ!嫌なら無条件で俺に服従だ!」
先程烏間殿が言っていた事が本当なら、あのナイフを持たせても軍人である鷹岡に勝てるような生徒はあの場にはいない。
そもそも訓練を初めて1年も満たない彼らが軍人である人間と対等に戦えるとは思えない。僕は武闘派ではないからやりたくないけど。
「さあて、烏間殿は誰を選ぶんだろうね?」
空いたターゲットの隣に座り込み、グラウンドの様子を見つめる。
ナイフを手に取り後ろにいる生徒達を見る烏間殿。
歩み出した烏間殿がある生徒の前で立ち止まった。
その光景に僕はニヤリと笑う。
「奇遇だねぇ烏間殿。僕も彼なら少しはやれそうだと思ってたんだ」
そう、烏間殿は潮田渚の前で止まったのだ。
彼の事だ、未だに迷っているのだろう。本物のナイフを使わせて良いのか、と。
ま、僕は潮田渚から感じたあの“殺気”が見れればそれでいいんだけどね。
「カラスマの奴、どうかしちゃったんじゃないの?なんで渚なの?」
「見てれば分かります」
どうやらイリーナは烏間殿が潮田渚を選んだことに疑問があるらしい。
……もしかしてイリーナの奴、潮田渚が放った殺気を知らないのか?
「貴方は烏間先生が渚君を選んだことをどう思いますか?」
ふと、ターゲットがそう尋ねてきた。
視界にナイフを持った潮田渚を捉えたまま、僕は口を開いた。
「そうだね……。間違ってはいないと思うよ」
「貴女まで……っ!?」
驚くイリーナの声は置いておいて。
ターゲットの問いに僕がそう答えた時、潮田渚に動きがあった。
彼は初めて持ったであろうナイフに怯む事はなかった。
その表情は穏やかなもので、微笑みながら鷹岡の元へと歩いていたのだ。
鷹岡との距離がほぼ埋まった瞬間だった。___潮田渚がナイフを振り上げた。
ナイフは躱されてしまったものの、鷹岡はナイフを向けられるまでの間、完全に油断していた。
咄嗟に躱したため重心は後ろに掛かっている。あ、バランスを崩したって事ね。
その隙を狙って潮田渚は鷹岡を押し倒し、素早く背後に回った。それはまるで、長い胴体を持つ生き物…『蛇』のよう。
「捕まえた」
静まり返ったグラウンドに、潮田渚の勝利の声が聞こえた。
これで確信した。昨日感じた潮田渚からの殺気は勘違いでは無かった。
彼は持っているんだ……暗殺の才能を。
2021/01/04
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