椚ヶ丘中学校3年E組



「“それは言えないなぁ”」


その言葉を口にした僕の声に、ターゲット、教室内にいる生徒達が驚きの表情に変わる。
……だって僕の声が、先程まで教室にいたシロの声そのものだから。
身体ごとターゲットの方を振り返って口元をあげる。

僕の“声帯模写”は完璧だ。
僕が殺し屋として高い位置にいるのは、この『声帯模写』と、どちらの性別にも捉えられる自身の顔を使った『変装術』があるからだ。
男性の声は少しばかり慣れるのに時間が掛かるが、それは性別上の問題だ。仕方ない。
だがら、この声帯模写と顔は僕にとって最大の『武器』だ。


「貴方は一体何者ですか……!?」


驚いているターゲットを見て、僕はもっとこの状況を面白くしようと再び喉を鳴らす。


「先程彼が申したでしょう?……“私はあの方の助手です”」


先程の低い声は何処へやら。
今度は透き通った女性の声が僕の口から出てきた。
此処にいても時間の無駄だ。背を向けて、校舎を去ろうとした時右肩から何かが溶ける音が聞こえた。


「にゅッ!?」

「ああ、ごめんなさい。私も彼と同じ物を使ってるの。……だから、貴方は私にも触れられないわ」


僕のマントへターゲットは触手を伸ばしたが、先程シロの肩に触れたときの様に触手は瞬時に溶けてしまった。
そう、このマントもシロが身に纏っていたものと同じ、対触手繊維で出来ている。
このマントもシロから事前に貰った物だ。僕好みのサイズを知っているのも気持ち悪い。
……話が逸れたがつまり、ターゲットは僕にも触れることができないのだ。


「では、また会いましょう」


窓から出て行こうと視界を外へ向けるとこちらを見て如何にも待っていた、と言うようにそこにいた人物……シロが視界に入った。
嫌いな奴と一緒に帰りたくないんだけど。
軽々と窓枠から外へ脱出し、後ろを振り返る事なく歩みを進める。


「さて、どうやってあの中へと入ろうか……」


第一印象は恐らく最悪。
偽って入ることは出来なさそうだ。


「……それに、あの場所にまさか“彼奴”がいるとは思わなかったなぁ」


一瞬だけ視界に入った金髪碧眼の女性を思い浮かべながら、最後に会ったのは何年前だったかな、と思い出す。
間違いなく、彼奴は僕だと気付いている。
同じ職業の人物であり、唯一プライベートを共にしたことがあるのだから。
彼奴の前で声帯模写を使ったのは間違いだった。いや、気付くのが遅かった僕に落ち度があるか。

……これはもう、変装も効かないかな。ならば、堂々と入ろう。
これからのプランを考えながら、シロの隣へと歩くのだった。





2020/12/30


prev next

戻る















×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -