椚ヶ丘中学校3年E組
発砲した銃をレッグホルスター中へとしまう。
火薬の臭い。嫌だ嫌だ、臭いが付いちゃうじゃん。
「……出てきなさい。私には“におい”で既にバレていますよ」
……ほら、言った側から。
ターゲットの声が聞こえた同時に感じたのは視線。
そちらに視線を向けると、こちらを見上げるターゲットと目が合った。
……なるほど、鼻が利くようだ。かなり厄介だな。
大人しく木から降りて、教室の窓枠へと近づく。
そこから見えたのは「誰だ?」「仲間?」などと、突然現れた僕に対しての驚きが少々混じった視線を送る3年E組の生徒達と、
「助かったよ」
僕にお礼を言いながら気絶した堀部糸成を担ぐシロ。
一応反応してやろう、と無言で頷く。
「その子は……」
「私の助手です。……転校初日で何ですが、暫く休学させて貰います」
誰がお前の助手だ。
僕なりの設定で此処に潜入しようとしていたのに、ターゲットに“におい”を覚えられたという大失敗をしているのに、更にややこしい事をするな。
フードの奥から睨み付けるも、向こうは僕を見ていないし、そもそもそんなことを気にもしていないだろう。
「シロさん、貴方には訊きたい事が山ほどある……。そこの顔が見えない子にも」
「嫌だね、帰るよ。……力尽くで止めてみるかい?」
ターゲットの横を堂々と通り過ぎ教室の出口へと足を進ませたシロ。
当然、ターゲットがそう簡単に逃す訳もなく、シロへと触手を伸ばした。
「にゅッ!?」
その触手は、シロの肩に触れた瞬間溶けた。
シロは自分の肩についた溶けた触手を払い、ターゲットの方へ首だけ振り返る。
「『対せんせー繊維。……君は私に触手1本も触れられない」
対せんせー繊維。
もしかして、政府に支給された弾とナイフと同じ物か。
生で初めて見たけど……あんなに面白く簡単に触手を破壊できるのか。
「心配させずともすぐに復学させるよ、殺せんせー。3月まで時間がないからね。責任持って、私が『家庭教師』を勤めた上でね」
……シロの奴、教室を出る前にこちらを見た。
まさか、帰りも一緒に来いって事か?
それとも……
「待ちなさい!」
足止めかい?
一緒に帰るなんて選択肢、こちらとしては丁重にお断りしたいし……。
「シロさんの助手である君に、訊きたい事がある!」
足止めを選ばせて貰おう。
ターゲットの声に首だけ振り返り、視界にターゲットを捉える。
「あの触手を……、助手である君なら何か知っているはずだ。……何処で手に入れた?」
どうやらターゲットは、堀部糸成が付けていた触手の入手先が気になって仕方ないらしい。
そうだよねぇ、知りたいよねぇ…。
喉を鳴らしてから、口を開ける。
「“それは言えないなぁ”」
それは僕も知りたいんだ。
自身の喉から発した自分の“声”を他人事のように聞きながら、ターゲットにニヤリと笑いかけた。
2020/12/30
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