学園祭の時間



「そういえば、どうして名前はあの場所にいたの?」


ふと、問われた言葉。
あの日、放水路がある地下に訪れた理由を訊きたいんだろう。


「目的がビッチ先生じゃなさそうだったし」

「な!? ナマエ、私の為に来たんじゃないの……?」


ショックを受けるなよ、成人女性だろイリーナ……。ま、可愛い顔に免じて正直に話してやろう。


「ある意味、目的にイリーナは入る。お前が烏間殿に誕生日プレゼントとして花束を渡され、そのことに腹を立て校舎を出た後、その後を僕は追ったんだ」

「あ、あぁ……。そんな事もあったわね……」


なんか気まずそうだな。
そういえば、烏間殿はその時の事についてイリーナに謝ったのだろうか。後で聞かなくては。


「だけど、僕はイリーナを止める前に動けなくなった。……触手に呑まれそうになったから」


頭に痛みが走る。……これは説明に必要な事だから、仕方ないのだ。我慢しろ、僕。


「あの時名前が暴走したのは、それが原因だったんだ」

「それほど、あの人は名前にとって印象深い存在なんだね」


印象深いという言葉に、どのような意味が込められているのか。……今は聞かないで置こう。触手を騒がせたくないからね。


「本当にナマエはあの男と知り合いだったのね。でも確かに、やたらE組の生徒リストを眺めていたような気がする……って、話すのは止めておきましょ。今のアンタにとって良くないみたいだし」

「気遣い感謝するよ、イリーナ。それで、話を戻すけど……」


この話は、何故僕があの放水路がある地下に訪れたのか、というものだ。



「ま、察しの良い人なら気づいていると思うけど……君たちが死神とほざくあの男が目的だったんだよ」



僕の言葉は、クラスメイトの誰もが思っていたことのようだ。そんなに声があがらなかったことが、その証拠だ。


「触手が刺激しない範囲でなら、いろいろ聞いてもいい?」

「限界が来たらストップする。それまでならいいよ。けど、聞く内容も気を付けて欲しい、君らも死にたくないだろう?」


そう言えば、大体質問は限られるじゃないか……という声が。ふふん、これも話術のコツさ。知られたくない内容を事前に話しておけば、甘い思考の人間はその内容を避けてくれる。

……さて、彼らは何を僕に問うのかな?


「じゃあ、私いいかな」

「どうぞ、桃花」


初めに問うてきたのは桃花だった。彼女は僕に何を聞きたいのだろう?


「名前はビッチ先生が裏切ったって思わなかったの?」


そっか、彼らにはイリーナが裏切ったと思っているのか。僕はその一部始終を見ていないから分からないけど、イリーナはあいつに捕まったフリをしていただけで、実際は手を組んでいた、だっけ。

おっと、これ以上は話がそれそうだから、ここまでにしよう。まずは桃花の質問に答えなければ。


「思わなかったけど?」

「……え?」

「イリーナが裏切るとは1ミリも思わなかったけど?」


まず、僕はイリーナが裏切るとは思わなかった。これは嘘つきの僕でも本心から思っている事だ。


「その根拠は?」


それを問うたのはカルマだ。
根拠、ねぇ……これは正確なことでしか納得できない人には理解ができないかもしれない答えになるけれど。


「長年の付き合いだから、かな」


イリーナとは、僕が今より小さい頃からの付き合いだ。実際に付き合ったからこそ分かるもの……人間関係が、イリーナが裏切ったと思わなかった証拠だ。イリーナの人柄を知っているから。


「イリーナはね、殺し屋に向いていない優しい心を持っているんだよ」

「ちょ、ナマエ??」

「常日頃から僕は思ってる、イリーナは殺し屋に向いてない人間だって。お前は優しすぎるんだ。表では平然と人を殺し、裏切り行為をしても、心の底では傷付いている……そんな人間なんだ、イリーナ・イェラビッチは」


イリーナは生きるために人を殺すしか無かった。それしか、彼女という人間が生きる方法が、手段が……道がなかった。

殺し屋を含め、裏社会と呼ばれる世界で生きる人間には、このような背景を持つ人が多い。真っ当な生活を経験していて、裏社会へ踏み入る人間は珍しい方だ。


「な、何よ急に……照れるじゃない」

「どうかな? 僕の愛の告白は」

「〜っ、もう! やっぱりアンタ最高よ! 大好き!!」

「僕も好きだよ、イリーナ」


彼女は殺し屋として裏社会で生きてきて、だいぶ長い。それでもイリーナには純粋な心がまだ残っている。……その心は、彼女が裏社会に完全に染まっていない証拠だ。


「え、でもビッチ先生、烏間先生は……」

「なによ、友達に好きって言って何か悪いわけ?」

「イリーナ、彼らは僕が性別を明かしていないから、烏間殿との関係にヒビが入ると思ってるんだよ」

「あ、あぁそうだったわね……けど、私はその辺きちんと区別するから、浮気なんてしないわ」

「名前、フラれたね」

「僕は友人として好きだと言ったんだけど?」


カルマのからかい口調は無視してっと。
……今の感じだと、イリーナと烏間殿は仲直りして、関係が進展したってところかな?
いつもの露出度が嘘のように消え、お淑やかな雰囲気の衣服に替わっている。服装から変わるって言うし、何となくそう思うんだ。


「ふふっ、良い知らせを楽しみにしてるからね、イリーナ?」

「あまりにも大人な対応すぐて、たまにアンタが歳下ってことを忘れるわ……」

「僕の方が経験豊富だからかな?」

「だ・か・ら! たった数ヶ月差でしょうが!!」


ま、後で烏間殿にも確認するということで話して見よう。……イリーナについて、どこまで考えているか、とかね?





2024/02/25


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