学園祭の時間
「次、俺からいいか」
イリーナの話に一区切りついた所で……次の質問が飛んできた。
「イトナか。うん、いいよ」
次の質問者はイトナだ。彼は僕に何を聞きたいのかな?
「先程、律の元にこんな動画が届いた」
「映像、映しますね!」
イトナの言葉に律が応答し、胸上しか映っていない彼女の顔が消える。その後映ったのは___
「は? はああぁっ!!?」
聞き覚えのある曲……それはどこかで聞いたと言うより、さっきまで演奏していたもの。そう、僕と学秀のセッションが収められた動画が流れたのだ。
「何度見ても精度が高いな……プロにも負けないんじゃないか?」
「褒め言葉で受け取っておくよ、悠馬……」
悠馬の言葉に礼を言いつつ、僕は身身に付けた通信機を操作する。この動画を送りつけたであろう人物との会話を試しているんだ。
「おいラファエル。返事しろ、ラファエル」
『何? E組からのSOSなら聞かないよ』
3コールくらいして、ようやく応答したラファエル。どうやら、まだ僕がヘルプを出していると思っているらしい。
「もうその件はいい。別のことだ」
『別?』
「しらばっくれるなよ……さっきの演奏、何勝手に動画を撮ってるんだ!!」
『思い出作りだよ、思い出作り。僕からのプレゼントだと思ってさ』
「だったら僕に直接送ればいいだろ、なんでE組に送ってるんだ!」
『あっれ〜、本当? ごめーん、送信先間違えちゃったみたーい』
「わざとだな、後で覚えてろよ……」
ブツッと切れた通信機をぶん投げたくなったけど、なんとか我慢した。携帯で位置情報を確認しみると……さっき確認したところから動いてないみたいだから、まだスモッグと話しているんだろう。そんな長時間も語り合えるものなのか?
「……それで、この動画が何か?」
もう暫くはラファエルとは繋がらないだろう。
そう思った僕は、質問者であるイトナに問いかけた。この動画を見せた意図が分からなかったからだ。
「お前は、本校舎の方がいいのか?」
「え?」
何故本校舎に行ったことを知ってるんだ?
あ、この映像を見てるんだから知ってるか……?
「偵察中、お前が本校舎から出てくるところを見た」
「偵察?」
「本校舎の連中が、文化祭で何しているのか見てたんだよ」
何故偵察を?
そう思っていると木村が補足してくれた。君たち、また何か競ってるのかい……?
「それで、どうなんだ」
「べ、別に本校舎がいいなんて一言も言ってないだろ」
「だからこそだ。心の奥底では本校舎が良いなんて思っているんじゃないのか?」
そう思っていると、イトナが話を戻してきた。
彼が話したのは、まぁ……言うなれば、E組を捨てるのかみたいな感じかな?
言葉数は少ないけど、声音と雰囲気がそれを物語っているんだもん。
「名前が本校舎にいくわけないじゃ〜ん。何を言ってるの、イトナくん」
「うっ」
「……カルマ」
イトナの会話を聞いていたときだ。肩を抱かれ、誰かに引き寄せられた。その人物は僕の隣を陣取り続けているカルマだ。
「名前ったら浮気者〜。俺がいながら堂々と浮気だなんて。なに浅野と仲良く演奏してるの? あ、嫉妬させる作戦なら大成功しているよ」
「いつ僕は君の恋人になったんだい? 僕はフリーなんだけど?」
くっついてきたカルマを頑張って引き剥がそうとするが……くっ、なんて力だ……!
「こらカルマ、名前が嫌がってるだろ。今日でもう2度目だぞ」
「磯貝、悔しいなら正直に言えば?」
「……っ」
「カルマ、俺は名前とまだ話しているところだ。割り込まないでくれ」
なんか、3人の視線が滅茶苦茶に僕の周りに集中しているんだけど。なにこれ。
「いつも大胆にアピールしているカルマくんに!」
「体育祭で名前への行為を大公開した磯貝くん!」
「何気に名前ちゃんを気に掛けているイトナくん!」
「そして、本校舎から名前さんを狙う浅野くんも入れるとなれば……!」
4人は顔を合わせて、同時に頷く。そして、僕を見た。
「「「「五角関係!!」」」」
「楽しそうだね、人をネタにして」
その4人というのは、上からカエデ、優月、日菜乃……何故か女子に混ざっているターゲットだ。
というより、なんでその4人なんだ?
「でも、名前には隣に置くならこの人って人がもういるんでしょ?」
そう思っていたとき、桃花がそう割って入ってきた。……まさか、前に話していたことを覚えていたなんて。
「そういえばその話、前は流されちゃったよね。私、詳しく聞きた〜い」
「残念だけど、それは僕と言う人間に関わる話だ。教えてあげられなくてごめんね、日菜乃」
「ざーんねーん……」
でも、話す事はできない。……何故なら、僕と言う人間に強く関係する人だから。
そして、隣に置くという表現は、合っているけど違う。正確には___置いてほしかった、だ。
「ならなら! E組なら誰が気になるの?」
「それ、ききたーい!」
僕が日菜乃の質問に答えられないと言った後、莉桜がそう質問した。どうやら女子達にとって興味深い話らしい。
「E組なら、か」
「うんうん!」
「で、だれだれ??」
E組で気になる異性、か。
それなら1人だな。
「渚」
一言、名前を告げた。
その瞬間、教室は静まり返った。……そして。
「「「なぎさ!!?」」」
「ぼ、僕っ!!?」
クラスメイトが一致団結した声と、名前を呼ばれた本人が聞こえる。う、耳が痛くなるくらい大きい……。
「まさかのあの三人には脈無し?!」
「だって『気になる』と言ったじゃないか。一言も恋愛面とは言わなかっただろ?」
「くそ、過去の自分に言いたい……もっと細かく言えって!」
「でも話の流れで察して欲しかった!」
「僕は察しが悪いんだ、すまないね」
「「「絶対、嘘!!!」」」
ちなみに、何故渚が気になる人物なのかというと、彼の能力さ。渚は殺し屋としての素質がありすぎる。一般家庭から生まれたのがびっくりな程さ。
「僕は殺し屋として彼に興味があるんだ。異性としてみているとなれば、答えはNoだよ」
「なんとなくそう思ってた……」
「つまんなーい」
「僕は質問に答えただろ? それをつまらないで片付けるな」
ま、心の内でこっそり考えるとしよう。
ふむ……異性として気になる人、ねぇ……。
「……やっぱり、僕にはあの人だけだ」
E組の男子で考えて見たけど……誰も隣に立つことを想像できなかった。それほどに僕には、あの人の存在が大きいんだ。
……それに気づいてほしい。いや、あの人は分かってた。分かっていて無視したんだ。
「……酷い人だ」
目を開ければ一番に目が合った人がいた。
その人物は、周りと一緒にはしゃいでいて、誰よりも楽しそうだった。
……その光景を見て胸が苦しくなったのは、きっと気のせいじゃない。
学園祭の時間 END
2024/02/25
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