死神の時間


side.×



「名前ちゃん!!!」


誰かが名前の名を悲鳴のような声で呼ぶ。それと同時にカチャッと銃が鳴った。それは突如現れた存在が銃を下げたために鳴った音だった。


「安心して、眠ってるだけだから」

「ねてる……?」

「今僕が発砲した銃弾は身体を貫く程の物質を持っていない。答えを言ってしまうと、レオンに撃ったのは麻酔薬さ」


足音が響く。その足音は段々と大きくなっていき、E組の元へと近付いていることが分かる。


「眠らせたから触手の暴走も止まってる。けどレオンが起きたら、また暴走する可能性が高い。レオンは麻酔に少し耐性があるらしいから、かなり強力な成分を選んで作ったけど……上手くいったようで良かった」


その足音は、とある場所で止まった。その場所は眠らされた名前の前だった。それと同時に、名前を撃った人物の顔が見えるようになった。


「あなたは一体誰ですか? 苗字さんを知っているんですか?」

「知ってるよ。というより、レオンの助手って言っても良いかも」


暗がりから現れたのは白衣を身につけた青年だった。幼さが残る顔つきは、E組生徒達とそう年齢が変わらないように見える。

青年はその場で屈むと名前の様子を確認し始めた。数秒後、青年は思い出したような声を出して顔を上げた。


「あ、そうだった。僕はレオンから聞いていたからあなた達ついて知っているけど、あなた達は僕を知らないんだった。まずは自己紹介しないと」


青年はどこから取りだしたのか、名前の頭の下にタオルを敷く。その後、青年は立上がった。



「僕はラファエル。裏社会に来てから、周りの人は僕をそう呼ぶようになった。だから自然と僕もそう名乗るようになった。今後会う機会があるかどうか分からないけれど、よろしく」



青年……ラファエルは穏やかな表情をE組へ向け、自分の名……正確には、コードネームを伝えた。


「ラファエル……その名前、聞いたことあるわ」

「ほんと、ビッチ先生!」

「天使の名を冠しているけど、実際は救いの天使ではない……死へといざなう天使ということで知られている」

「じゃあ殺し屋……!?」

「いいえ。ラファエルは殺し屋ではない……でも、その頭脳は人を死へと至らせるほどの凶器と言われているわ」


イリーナが知る人物……裏社会では名の通った人物である事は間違いないようだ。


「説明ありがとう、イリーナさん。あ、名前で呼ぶのは失礼だったかな? レオンが貴女のことを名前で呼んでいたから、つい口に出てしまったよ」

「構わないわ。けど、あんたどうやってナマエから信頼を勝ち取ったわけ?」


イリーナの唐突な質問にE組生徒達は疑問の声を出す。何故信用の話が出てきたのだろう、と。


「ナマエは疑り深く、警戒心が高い子よ。E組あんたたちにも言える事だけど、ナマエは相手にいい顔を見せながら、その人物を探る人なの。だから本当に助手と思っているのか私は信じられない」


イリーナは名前が友人と公言した人物。また、イリーナ自身も名前を友として見ている。互いの事を理解しているからこそ、イリーナはラファエルを疑った。


「殺し屋は疑り深いって事は知っているし、きちんとした真実がなければ信用は得られないのも分かってる。だから、僕を疑う貴女に信じてほしいとは言わない。貴女が信頼しているレオンから聞く事が1番早く納得して貰えるだろうからね」


どうやらラファエルは、初めから信じて貰えるとは思っていなかったらしい。イリーナに向けられた笑みは好青年と言っていい表情だが、どこか怪しさがある。


「レオンに聞いてみて。『どうしてラファエルと行動を共にしているのか』って」

「……分かったわ」

「では、俺から聞いてもいいだろうか。ラファエル」

「その声は……あぁ、烏間さんだね。こうして対面するのは初めましてだね」


次にラファエルへ声を掛けたのは烏間だ。
どうやら2人は対面はなくとも声のみでやり取りしていた事があったのか、面識がある様子。


「何でしょう、烏間さん」

「君は苗字さんの状態を知っていながら、彼女をここへ向かわせたのか?」


烏間の質問は、教師としてのものだった。
当然烏間も知っていた。名前が触手を暴走させて、しばらく休む必要があるほどに弱っていた事を。


「僕は止めたんですよ。けど、レオンはどうしてもって聞かなくて」

「君は彼女の専属の医者だろう。何が何でも止めるべきだった」

「それは分かっています。けど、あなた達も知っているはずだ……触手が及ぼす影響を」


ラファエルが発した『触手』という単語に、ある人物が反応した。ラファエルはその人物に気づいていないようで、話を進めた。


「僕はレオンが触手に願ったこと・・・・・について知っている。間違いなくまた暴走するって事も伝えました。……けど、レオンは分かっていて『行く』と言ったんです」


……同時に、レオンの意思が固いことも分かって、止めることを止めました。それが、この結果です。

そう言ったラファエルの顔は、どこか苦しそうな表情を浮べていた。まるで、後悔している___そう言っているように。



「ラファエルさん。貴方に聞きたい事があります」

「……何かな、超生物。いや、此処では殺せんせーと呼んだ方がいいんだったかな」


次にラファエルへ声を掛けたのは殺せんせーだった。殺せんせーの姿を捉えたラファエルの瞳は、先程まで会話していたイリーナ・烏間と変わらないはずなのに、どこか纏う雰囲気が違う気がする。


「先程貴方はこう言いました、苗字さんが触手に願ったことを知っていると」

「うん、言ったよ」


それがどうしたの?
笑みを浮べ首をかしげるラファエル。そんな彼に、殺せんせーは言葉の続きを告げた。



「では___貴方が苗字さんに触手を与えた張本人ということで良いですか?」



そう告げた殺せんせーの声は、確信を持っているように聞こえた。





2023/11/11


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