死神の時間


side.×



「っはははは! 嬉しいよ、嬉しくてたまらないよ! こんなに嬉しいと思ったのは、ナマエがいなくなってから感じなかったんだ!」

「それは嬉しいね、お前が絶望している姿は見物だな!!」


名前がナイフを投擲する。だが、死神はそれを分かっていたように首だけで躱す。その代打に名前は死神に接近し、ナイフを振りかざした。


「相変わらず元気で良かったよ、ナマエ。僕は心配していたんだ」

「チッ……!」


しかし、それすらも当たらず。
名前は死神に対し、舌打ちをして睨み付ける。その表情は死神に対して怒り……否、それ以上の感情を持っているように見える。


「はえぇ……何が起きてるのか、わかんね……」

「というより、苗字には死神が見えてるのか?」


檻の中で名前と死神の様子を見ている生徒達。彼らには二人の動きが速く、また姿が見えずにいる。姿が見えないというのは、そこにいるのは間違いないのに姿が見えない、というものだ。


「……名前は、まだまだいろんな事を隠してる。それは実力もそうだと思う」

「それに、初めてE組に来た時に言ってたもんね。『まだまだすごい事を隠しているから、楽しみにしてなよ?』って」

「それが、今目の前にあるものなのかな」


女子達が死神に武器を振りかざす名前を見つめて話すのは、彼女の実力。自分達が手も足も出なかった人物を相手に、対等に戦っているからだ。

それを見て誰もが思ったのは___実力の差だ。
彼らは分かっていた。これは経験の量であることも、殺し屋として長年過ごしたからだということも。

それでも、同い年であるという共通点があるから、劣等感を抱いてしまう者が少なからず出てきてしまうのだ。


「……」


そんな中、渚はとある人物を見上げた。その人物は殺せんせーだ。
殺せんせーは一言も話す事なく、名前と死神の戦う姿を見つめていた。変わらないデフォルトの表情で見つめているため、彼が何を思って二人を見ているのか分からない。


「……これが邪魔だと思う日が来るだなんて」


場面は再び名前と死神の元へ戻る。
自分の胸元に手を伸ばしたと思えば、名前はローブの紐を解いた。パサリ、と落ちたローブの中にあった彼女の服装は。


「彼奴、超体操着じゃない……!」


名前の格好はE組生徒と違うものだった。形状こそは、男子の超体操着に似ている。しかし、名前の来ている服は、動きやすさに重視した見た目をしており、カラーリングは黒だけで統一されていた。腕・足に付けたホルスターだけが違う色をしている。

彼女が纏うローブの中は、このようになっていたのだ。


「! もっと速くなるか!」

「速さだけなら、お前に負けない……!」


先程よりも名前のスピードが上がった。それを見た死神は、ずっと浮べていた笑みを更に深めた。
その表情は、どこか恍惚としているように見える。


「ああそうだとも! ナマエは僕よりも素早いからね……いつも参考になってたよッ!」

「! くっ、」

「名前ちゃんっ!!」


死神が振り上げたナイフが名前の頬に擦った。それを受けた名前は足を止め、負傷した部分を抑える。


「っ!」

「! ふふっ、お返しかな?」


だが、その油断を逆手に名前はナイフを投擲した。そのナイフは死神が躱すことを予想した軌道で投げられており、彼女の狙った通りかは分からないが命中した。

死神は名前によって切られた自分の頬を愛おしそうに撫でる。それを見る名前は青色の瞳を鋭くさせていた。


「ねぇ、さっきから思ってたんだけど……名前ちゃんに対する死神の態度、変じゃない?」

「やっぱりそうだよね? 何て言うんだろう、あーいうの……」

「うーん……」


流石のE組生徒達も気づいてきたようだ。……名前に対する死神の態度に。
先程から死神は名前に攻撃されていることに怯えるどころか、嬉しそうにしているのだ。


「そもそも、名前さんと死神は___知り合いなの?」


片岡が発言した言葉。それに数名が反応した。


「その可能性は高い。死神の様子を見れば明らかだと、俺は思うね」

「じゃあ、どうして名前ちゃんは死神に攻撃するの?」

「それは名前を見ていれば明らかだよ。……死神に対して、名前は明らかな殺意がある」


倉橋の問いかけに答えたのは___カルマだった。
彼は過去に喧嘩の絶えない日々を送っていた。そこで得た経験が、名前の殺気について感じ取った。


「どうしてそう思ったの?」

「似た様な経験がある、とでも言っておこうかな。だけど、俺とは比べものにならない殺意だ」

「……具体的には?」


カルマの発言に問いかけたのは、磯貝だ。
何故そう言い切れるのか。磯貝はそれを知りたく、カルマに問いかけた。



「はっきりとは言えない。でも、これだけは合ってると思う___名前は死神を憎んでいる」



その発言に磯貝は目を見開いた。
何故なら、磯貝には名前に対する『ある疑問』があるからだ。

その疑問というのは、夏休み中にクラスで訪れたリゾートで聞いた、名前とイリーナの会話内容が関係している。


『___僕は今、死ぬわけにはいかない。……ある人達を殺すまでは』


磯貝は今、その発言を思いだしていた。
まさか、名前が殺したいと思う一人が死神ではないのか、と。



「名前……」


磯貝の呟き声は、声の中にあった名前の主に届くことはなかった。
その対象は、ただ一心不乱に死神へ攻撃を続けていた。





2023/09/08


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