死神の時間
「……収穫なし、か」
ロンドンに滞在すること2週間。
僕は死神と名乗っていた人物について何も収穫できなかった。これ以上収穫はないと判断し、僕は日本へ戻ってきた。
……その言い方、まるでニセモノって言ってるように聞こえる?
当然だ、僕は死神を知っている。死神と名乗っているその人物はニセモノだと断言できる。
その根拠はなんなのか、だって?
……感、とでも言っておこう。今はね。
「レオン、ちょっと」
「なんだよラファエル」
ラファエルが滞在するセーフハウスで寛いでいると、声を掛けられた。首を傾げながらもこちらへ手招きするラファエルの元へ行く。
「触手、診させてくれない?」
「触手? 構わないけど……」
まだメンテナンスを受けなくても大丈夫だと思っているんだけど……そう思いながらも触手を埋め込んでいる項をラファエルの方へ向ける。
「……思ってた通りだ」
「思っていた通り?」
「ロンドンへ行くって言った時点で予想出来ていたけど……」
ブツブツ言ってないで説明してくれないか。そう思っているとラファエルの手が項付近から離れる。
それを見終わったと判断し、ラファエルへ向き直る。
「触手が少し活発化しているようにみえた。まぁ、君が触手に対して答えた内容を知っているから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど」
僕は触手を埋め込んだとき、とある声が聞こえた。それに対しラファエルはこう答えた。それは触手がどうなりたいのか問いかけているのだ、と。
僕はそれに対し、答えたのは……。
「僕は君の強い理性を信じている。けど、伝えたように触手に呑み込まれたその時……正気に戻るのは困難だ。堀部イトナくんの件で、君は何度も見ただろう?」
「……あぁ」
「君の身に根を生やしたソレは完成したものとは違う。完成形でさえ1歩誤れば呑み込まれる可能性がある。君のソレは普通じゃない。何度も言ってるけど、本当に気を付けて欲しいんだ」
この話は何度もラファエルから口酸っぱく言われている。耳にたこができるってほどにね。
ラファエルが言っていること。それは触手に意識を乗っ取られ、自分の意思では制御出来なくなることだ。簡単に言ってしまえば、暴走だ。
「だが、気絶させれば暴走は止まるんだろう?」
「触手は本人の意識を乗っ取ることはあれど、気絶させれば触手も眠る。あくまで触手が動くために必要なのは、宿り主の意識があることだ」
触手に呑み込まれる。……イトナの件でそれは理解しているつもりだ。だが、実際にその身で体験しないことにはその恐ろしさは測れない。
しかし、見た事があるとないでは、彼からの注意に対し感じ取れる重さが違うと思う。
「触手は君の身体を徐々に蝕む。薄々気づいているんじゃないかな、自分の思い通りにいかないことが増えていないかって」
「!」
ラファエルの言葉に反応してしまう。……そう思う事が所々あったからだ。
事前に話を聞いてはいたが、自分が思っている以上にソレが多くあると感じている。いつもならこんなこと……と思った事は何度あっただろう?
「僕も君の身体について注意しているつもりだけど、1番は君が自覚してくれることだ。何か変化があったら必ず僕に報告すること。いい?」
「君は僕の助手なんだけどなぁ……ま、悔しいけど医学について僕はからきしだ。ちゃんと伝えるよ」
「うん、そうして」
辛うじて僕の”本来の目的”については口にしていない。けど、それに至ったものについて少しだけイリーナに話してしまった。当然、止められたけれど……それに対し返した言葉は僕の本心だったと思っている。触手に後押しされたものではないはずだ。
やっぱりあいつ、殺し屋向いてないよなぁ……特に心が。
「さて、明日は学生に戻らないとだから、寝るとするよ」
「了解。ゆっくり休んでね」
「ああ。時差ボケも直さないと行けないからね」
それに、ロンドンにいたお陰であいつに伝えられなかったことがあるし。
せめて朝早くに伝えてあげないと拗ねそうだ。
ラファエルに寝ることを伝えて僕は、ベッドルームへと足を進めた。
2023/04/22
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