死神の時間



「ロヴロ、具合はどうだ」

「何とかな。日本からわざわざ悪いな」


場所はロンドン。
僕はベッドに座るロヴロの元を訪れていた。


「学校は良かったのか?」

「僕の本職は殺し屋だ。学ぶことじゃない」


学校というものは休むためには報告をいれなければならない。そして、それなりの理由がなければならないのだ。

……先日、ラファエルから伝えられた言葉。それはロヴロが刺されて重傷を負ったというものだった。どうやら怪我で忙しい中、僕に連絡をくれたようだ。


ただし、いくら知り合いとは言え僕は見舞いのためだけに彼の元を、ロンドンを訪れたわけではない。言ってしまえば、ロヴロの見舞いはついでだ。



『ロンドンに行く、ですか』

『ああ』



体育祭振替休日、僕はE組校舎を訪れていた。
気配を感じ取ったのか、ターゲットが僕の前に現れたので、用件を伝えた。


『それも人捜し……うーん、学校を休まなければならないほど重要なのですか?』

『そうだ。他人には理解できない理由かもしれないが、僕にとっては……!』


ターゲットに学校を休んでまでもロンドンに行く理由を伝えた。人捜しと言えば、そりゃあ疑問に思うだろう。
けど、この話を詳しく掘り下げられてしまうわけにはいかない。……特に、あなた・・・には。


『……分かりました。ですが、必ず無事に戻ってきてください』

『夏休みにも聞いたな、その言葉』

『貴女も私も大切な生徒なのです。心配して当然でしょう?』


……大切な生徒、か。
僕はあなたを殺す為に送り込まれた本物の殺し屋なのに……生徒として見てくれるなんて、ね。

けど、運が僕に向いてなければ……日本には帰れないかもしれない、なんてね。



「ところで、後ろの男は」



いろいろ考えていると、ロヴロの視線が僕の後ろへ向く。僕の後ろには連れてきたラファエルがいる。見知らぬ顔がいて落ち着かないのは当然の反応か。


「彼はラファエル。電話越しで話をしたことはあるだろうが、対面するのは初めてじゃないか?」

「お前が、か。……初めまして、ラファエル」

「初めまして、ロヴロさん」


僕はE組で再会するまで、2年ほどロヴロと会っていなかった。ラファエルとはその期間の間に出会い、僕の助手として向かい入れたのだ。なのでロヴロとラファエルが対面したことがないのは当然である。


「じゃあラファエル。ロヴロの容態を診てやってくれ」

「了解」

「どこかへ行くのか」


ラファエルに指示を飛ばしながら僕はマントを羽織る。その様子を見ていたロヴロが声を掛けてきた。


「あの話が本当か……君が刺されたという場所に行ってくる」


人を探すために僕はロンドンへ来た。その人物というのは……


「間違いないんだろう? ……君を刺した人物が死神・・と名乗ったのは」


死神
僕がロンドンへ来たのは死神を探すためだ。

ロヴロは僕が死神に憧れている事を知っている。それは彼と出会った時に問われた質問で、僕は死神を目標としていることを伝えた。だからこそ僕に連絡を寄越したのだろう。


殺し屋の世界において最強と呼ばれ、恐れられている存在。当然、僕が適うような存在ではない。下手をすれば刃を向けられるだろう。

そう考えているのに、どうして探すのかって?
……会いたいからって理由じゃないよ。


「時間が惜しい。僕は行く」

「あ、レオン!」


呼び止めるラファエルの声を聞き流し、僕はその場を後にした。……自然と足を進める速度が早くなっていることに気づかないまま。



「レオン……やつはあんなだっただろうか」

「? どういうことです?」

「いつもの奴らしくないってことだ」

「レオンらしく……ない?」

「奴はいつも貼り付けたような笑みを見せる。だが、先程までの奴の表情は……殺し屋が持ってはならない感情を抱えているように俺は見えた」

「殺し屋が持ってはいけない感情、とは?」



「___憎悪・・。先程のレオンからはそれを感じた」



そして、僕が去った後。
ロヴロとラファエルがそんな会話をしていることに僕は気づかなかった。





2023/04/22


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