名前の時間
「えッ!? 正義!? てっきり正義だと思ってた……」
変な名前の奴ならこのクラスに何人もいるだろう
イトナのその発言であげられた名前の1人であるこの人物……木村正義だ。
どうやらカエデは彼の名前の読みが正義であることを知らなかったらしい。
僕は生徒の名簿を見て彼の下の名前がジャスティスであることは知っていた。だから日本人と外国のハーフか何かだろう、と思っていたんだが……どうやら生粋の日本人であるようだ。
「みんな、武士の情けで正義って呼んでくれてんだよ。殺せんせーにもそう呼ぶように頼んでいるし」
「最初、入学式で聞いた時はビビったよなぁ〜」
「ま、まあな」
「卒業式でまた公開処刑されると思うと、嫌ったらねーよ」
というより、カエデが木村の下の名前の読み方を知らなかったのは意外だ。
もしかしたら僕と同じ転入生なのだろうか。
「追い打ちをかけるようで悪いが、何故そのような名前を?」
「俺の親、警察官なんだけど、正義だのどうので付けられたんだ」
「なるほど……」
「親は親で『付けた名前に文句を言うとは何事だー!』って叩いてくるしよ……。子供が学校でどんだけからかわれるか、考えた事もねぇんだろうなぁ……」
この様子だと、木村は自分の名前を嫌がっているようだ。
……子の気持ちなど考えない。
僕と一緒だ。
僕の名前は、間違いなく嫌がらせで付けられたものだ。
あれは僕の事を悪魔だと言っている様なものなんだから。
「そんなもんよ、親なんて」
僕が自分の意識に入っていると、木村の机に誰かがやってきた。
そこにいたのは綺羅々だった。
「私なんてこの顔で綺羅々よ? 綺羅々っぽく見えるかしら?」
「い、いや……」
顔が怖いぞ、綺羅々。
木村が引いてるじゃないか。
綺羅々こと、狭間綺羅々の親はメルヘンチックな思考の持ち主らしく、彼女の命名もそこかららしい。
しかし、その家庭環境は面倒のようで彼女は相当ストレスを抱えているらしい。
「そんなストレスかかる家で育って、名前通りに可愛らしく育つわけないのにねぇ」
「綺羅々、周りが君の話について行けてないぞ」
「あら、そうなの」
……一般人にも苦労している環境の家庭があるんだな。
改めて思うけど。
「大変だね〜みんな。ヘンテコな名前付けられて」
「「「えっ!?」」」
そう言って僕の隣に現れたのはカルマだ。
周りからは「お前が言うな!」的な反応が返ってきた。
……って、あぁ。なるほど。
「そうか。カルマの名前も、キラキラネームという奴に入るのか」
「そうだよ。でも俺は結構気に入ってるよ、この名前。たまたま親のヘンテコセンスが子供に遺伝したんだろうね〜」
そういうのって遺伝するのだろうか。
まあ本人が気に入っているのなら何も言うことはない。
「先生も名前については不満があります……!」
そう言って木村の前に現れたのはターゲットだ。
どうやらターゲットも自分の名前に不満があるらしい。
「え? 殺せんせーは気に入ってんじゃん。茅野が付けたその名前」
杉野によると、ターゲットの名前を付けたのはカエデのようだ。
で、何が不満なのだろうか。
「気に入っているから不満なんです! 未だ3名ほどその名前で呼んでくれない人達が……」
ターゲットの言葉にビクッと身体が反応した。
2022/01/10
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