名前の時間



「キラキラネーム?」


それは日菜乃の発言からだった。
イトナの漢字表記を見たカエデの発言から会話が始まり、日菜乃が『キラキラネーム』という単語を口にしたのだ。

キラキラネームというものが分からない、と言うと驚きの声があがった。
……なんだ、もしかして常識なのか?


「そっか、知らないんだね。キラキラネームっていうのは、ぱっと見じゃ読み方が分からない名前の事を言うんだ」

「イトナ君の名前は糸と成で書くから、キラキラネームだよねって事!」

「ふむ、なるほど。それは悪い事なのか?」


先程カエデが日菜乃のキラキラネーム発言に反応したので、少し気になった。
……名前については少し、いやかなり抵抗があるから。


「いいや、そんなことないと思うよ。どんな名前にも意味はあると思うし」

「!」


メグの言葉に僕は目を見開いた。
意味のある、か。
じゃあ僕のあの名前・・・・も、意味のあるものだろうか。
いや、そうとしか思えない。
だって……


「名前さん?」

「え? どうした?」

「どうした、ってそれはこっちの台詞よ。どうしたの? 顔怖かったよ」

「それはすまない……」


どうやら顔に出ていたらしい。
……名前というワードは一旦忘れよう。
それに、僕の名前はナマエなんだから。


「でもまあ、キラキラネームとやらが悪い意味ではないことは良かったよ」

「名前ちゃんはどう思う? イトナ君の名前」

「イトナの名前?」


日菜乃の言葉に考え込む。

……何故か視線を感じる。
視線を感じる方へ顔を向けると、そこにはこちらをジーッと見つめるイトナが。


「……なんだ、イトナ」

「お前の回答を待っている」

「えぇ……」


イトナは表情が硬い方だ。
だから基本表情は無である。
そのため、僕の苦手な『何を考えているのか分からない』タイプに分類されるのだ。


「はぁ、分かった。考えるから少し待て」

「! あぁ」


何故か少し嬉しそうな声音だ。
それに、表情も少しだけ柔らかい。

……僕、信頼はさせるし好意も持たせる所謂『分かっててやってる』人間ではあるが、イトナからはそんなもの向けられないと思っていた。
なのに、イトナから感じるそれは、カルマから向けられるものに似ていて。


「……僕にとって名前というものは、その存在を指すもの。イトナの名前がイトナでなくともなんとも思わない。イトナではない別の名前であろうとも、僕の中での彼の評価は変わらない」

「? つまり、どういう意味?」


僕の言葉が長かったのか、カエデが首を傾げながら問うた。

……考えながら話してしまったから長くなってしまった。
簡単に言い直すなら……そうだな。


「イトナはイトナだろ、って事だ」

「!」


僕はイトナに視線を向けながらそう口にした。
さて、僕からの回答をご所望だった彼はどんな反応を……って。


「……ありがとう、名前」


なぜ嬉しそうなんだ!?
今の回答で喜ぶ要素あったのか!?
どちらかと言えば悪い方に受け取られる気がするんだけど……。


「あれれ〜?」

「これは……」

「うん」


お互い見合って頷く日菜乃、カエデ、メグ。
どうしてその短い言葉で会話が成り立っているんだ。


「名前さんはさ、イトナ君の事どう思ってるの?」

「ど、どうって……」

「だってイトナ君のこと知ってたんでしょ?」

「それは、僕が原因で……」

「それはそうだけどさ、あの日イトナ君を探してたってことはさ……」


ずいっと僕に近寄るカエデ。
その表情はどこをどう見ても楽しんでいる。


「イトナ君に気があるって事でしょ!?」

「違う」


カエデの言葉を秒で否定する。
気があるっていうのは、彼女達の中では好きなのか、って意味だろ。


「イトナは……責任なんだ」

「責任?」


くそ、話す気なかったのに……。
これで察してくれないかな。


「なるほど……。でもさ、そんな風に思ってるってことはそう言う事だよね!」

「うんうん!!」

「えぇ……」


君たち、都合良く話を変換しないでくれるかな……。
全くもって違うんだけど。


「俺は気にしてないって言っただろ」

「それでは僕の気分が晴れない。だから何かさせてほしい」


こちらを見上げるイトナの金色の様な瞳と目が合う。
……この瞳が、あの時触手によって自我のほとんどがなかった時は暗く濁って……しんでいるようだった。

今ではその輝きを取り戻している。
……もう僕は彼の瞳から輝きを奪いたくないんだ。
これは彼の為じゃない……機能することを思い出した僕の感情が、恐怖に染まりたくないからだ。


「前まではレオン呼びだったのに、さっき名前で呼んでたよ!? やっぱりこれはそういう事だよね!」

「新たなライバル出現って感じ!?」


こちらの心情など一ミリも分かっていないだろう女子3人の会話は、僕の耳には届いていなかった。
この光景を見ていた人達に、新たなカップリングとして認知されたことも……。





2022/01/10


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