紡ぐ時間



堀部イトナ……フルネームじゃなかったな。
イトナがE組に登校するようになって1週間が経過した。

先程ターゲットが給料が出たから上海蟹を食べに行く、と言って出ていたのだ。

……上海、中国か。
しばらく行ってないな。
そもそも僕、あんまりアジアには行かないんだよねぇ。

なにか理由があるのかって?
特にないよ、ただの偶然。


「どうしたの? 殺せんせーが出て行った窓を見て」


ボーッとしているように見えたのだろうか。
荷物を抱えながらカルマが僕に話しかけてきた。


「いや、しばらく中国に行っていないな、と思って」

「行ったことあるんだ? どんな感じ?」

「僕は仕事で来てるんだ。観光なんかするか」

「えーつまんなーい。あ、じゃあいつか中国いこうよ」


きっとカルマは軽い気持ちで約束を持ちかけたんだろう。
……だけど、僕にとって約束は少し怖いものなんだ。


「軽々しい約束なら断る」

「えー! いいじゃん国外デート!」

「なんで君はそんなに馴れ馴れしいんだ、本当に……」


視界のほとんどがカルマで埋まっている中、イトナをチラッと見る。
どうやらまだ帰らないらしい。

クラスでは寺坂たちとよく過ごしている。
どうやらこのクラスでは寺坂組、というらしい。
ま、イトナのことを見てくれるのならありがたい。

いつ依頼でここにしばらく登校出来なくなるか分からない。
だから寺坂のような普段から側にいる存在は助かる。


「まーたイトナ君の事見てる……。そんなに気になるの?」

「めんどくさい彼女か、君は」

「だって〜」


今ターゲットがいたら、また騒いでいたんだろうな……。
なんて思いながら、荷物整理を済ませて席を立つ。


「じゃあな。僕は帰る」

「途中まで一緒に帰ろうよ」

「家は教えない」

「えー」


今日は借りたマンションの部屋に帰る。
ラファエルのとこには寄らないつもりだ……と思った時だ。


「あっ、ナマエ!」

「どうした、イリーナ」

「ちょっと、ちょっと!」


廊下をカルマと歩いていると、職員室の扉が開く。
そこから出てきたのはイリーナだ。


「ちょっと話さない? 紅茶も用意するから!」

「なんだよ急に。まあ構わないけど」

「えー! 俺との放課後デートはー!?」

「デートの約束はしてないし、一緒に帰る約束もしていない。そもそも君が勝手に着いてくるだけだろ」


そう、カルマは僕と一緒に下校しているのだ。
そのうち家を特定されそうだ。

因みに僕と別れた後に尾行して家を特定しようと試みているようだが、なめるなよ?
僕を欺こうなど一般人のくせに生意気な。


「というわけでナマエは貰うわね、カルマ」

「ちぇ」


ということでカルマは帰って行った。
どうやら3人で過ごす、という選択肢はなかったらしい。


「で、何のようだい?」


職員室に烏間殿はいないようで、この空間にはイリーナと二人っきりだ。
早速本題に移らせてもらおうか。





2022/01/07


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -