堀部糸成の時間

side.堀部糸成

俺は堀部糸成。
今までは『殺せんせーの弟』という設定で度々暗殺を仕掛けていた。
しかし、それはすべて協力者……シロが計画したもので、俺はそのとおり動いていただけ。
彼奴……レオンと比べれば俺は何一つ暗殺者らしいことはやっていない。

すべて言う通りに実行する
それは俺が求めていた強さだったのだろうか?
……いや、違うだろう。

でも、シロの手を取った時の俺は強くなれるなら何でも良かったんだ。
だからその手を取り、触手を受け入れた。


触手を植え付けていた時も自我はあった。
だから、レオンと出会った時のこともぼんやりとだが覚えている。


『……!』


俺を見た時、一瞬だったがレオンの目が見開いたんだ。
その反応の意味は、明らかに俺に対して何か思うことがあったから。

その時の俺にはレオンの反応が何を意味していたのか分からなかった。
しかし、レオンが去った後、シロが教えてくれたのだ。


『レオンはね、君に罪悪感を抱いているのさ』

『……なぜ?』

『それはね、君を一人にしたことにさ』


シロの放った言葉は、触手の数が減ることに理解出来た。
……両親が俺を捨てて消えた理由。
その理由に関わっている、ということだ。

初めはレオンを憎く思っていたのかもしれない。
だが、二度目にあった時だ。


『僕はプロだ、一般人と比べないでよ』


あの時見た鋭い”赤い瞳”に俺は確かに怯んだんだ。
それと同時にこう思った。

勝てない
俺より強い、と。


『最も恐れられている殺し屋……「死神」に次ぐ強さを、僕は持っているのだから』


死神
どうやら暗殺界で一番強いとされている殺し屋だという。
その存在に近い実力を持つと自負していたレオンだったが、今思えばあの言葉……どこか強がっている・・・・・・ように聞こえたんだ。



***



「……あのネットから自力で出られなかった。それが答えだ」


周りから息を呑む声が聞こえる。
どうやら知らなかったらしい……レオンが触手を持っていることを。



「……どこで手に入れたんです、その触手を」

「知らない」

「……そうですか。疑いたくありませんが、やはりシロさんと何かしら関係があるのではありませんか」

「あれを見ていて、僕が演技をしていると言うんだね」

「そのつもりではないのですが……」

「僕にはそう聞こえる」


俺は少しだけシロからレオンの触手について聞いた事がある。
レオンの触手は俺に植え付けられていたものとは少し違うという。それがどう違うのかはまでは分からないが……これだけは分かる。

俺が持っていたのは、シロが作った触手
レオンが持っているのは、シロではない別の誰かが作った触手

俺が知っているのは……それだけ。


「ですが、あなたは触手を持っている。シロさんも触手を持っている。共通点がある以上、疑うしかない」


俺にとってレオンは、俺と両親を引き離した元凶の一人
そして、俺が強さと勝利に執着するようになったきっかけを作った存在

はっきり言って庇う理由はない。
……だけど


『……!』


あの時俺を見た顔が忘れられない。

どうしてあの時、俺を見て驚いた顔をしていた?
そのことが頭から離れない。
それに……


『苗字さん、イトナ君を探してたみたいなんだ』

『シロに用があるって言ってたのは……イトナ君の事だったのかな』


レオンが気絶している間、E組の奴らから言われた言葉。

レオンが俺を探していた
その事実がよく分からなかった

どうして俺を探していた?
その理由が知りたかった
……そんなことを考えていたからなのか


「___待て。レオンはシロと何の関係もない」


気づけば口を出していた。
自分が持っていた触手とレオンが持つ触手は作成者が別で、同じ触手でも少し違う・・ということを伝えた。
すると、今まで黙って聞いていたレオンがこちらを見上げた。


「なぜ僕を庇うような真似をする、堀部イトナ」


あの時見た赤色の瞳ではなく、澄んだ水色の瞳が俺を映し出す。
その瞳を見ていると、なぜかすべてを見透かしているような気分になる。


「知っているんだろう……僕が君に対して何をしたのか」


レオンが話しているのは、俺がシロと協力者の関係になるまでの経緯……親に捨てられることになったきっかけを作ったのは自分だという内容だった。


「……知っている。両親が俺を置いて出て行ったきっかけを作ったのがレオンであるのは」


……そんなこと、触手を植え付けられて自我が曖昧な時にうんざりするくらい聞かされた。


「ならば尚更なぜだ」


レオンの言葉はもっともだ。
普通なら自分を不幸にした相手に対し庇うなんてことしないだろう。

だけど……シロからその話を聞いて思ったんだ。
例えレオンが手を加えていなくとも、別の事であのような状況になったら……両親は逃げることを選ぶ人間なのだと。


「例えレオンが手を回していなかったとしても、あのような状況になった場合あいつらは逃げることを選んでいた。どちらにせよ、弱い奴だったんだ」


それを考えたら、レオンの所為であるが彼奴だけを責めるのは違うのではないかって思ったんだ。
シロは俺にレオンを憎んで欲しいみたいだったが、触手を植え付けられてまともに自我もなかった俺には何かを思うこともなかった。


あったのは、強さと勝利を求める心だけ。
あの時の俺にはレオンなどどうでもよかったんだ。


「でも、もう必要無い。強さの証明は、あいつを殺せばいいだけだ。そう寺坂が言っていた」


そう。
もう触手は必要無い。

だからレオン……いや、名前。
お前も強くなりたくて触手を望んだんだろう?
だったらもう、触手は必要ないんじゃないか?

だって強さは、ターゲット……殺せんせーを殺すだけで証明できるんだから。



***



ふと気になっていた事を思い出した。


『……兄弟設定。あれ、触手だけの話じゃないだろ』


あの時……シロに見限られた後に捕まった俺の前に現れた彼奴が放った言葉。
あの言葉がどこか引っかかっている。


触手だけの話ではない

改めて聞いてもよく分からない。
……名前は殺せんせーと何かしら関係があるのだろうか。



堀部糸成の時間 END





2022/01/07


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