堀部糸成の時間
『レオン、速報だ』
「話せ」
『今、椚ヶ丘で携帯ショップ襲撃事件が起こっている』
「!」
携帯ショップ。
普通に聞くだけなら何故破壊されているのか、と疑問を抱くだろう。
だが、あの子の事を知っている私には、なぜ彼が携帯ショップを襲うのか大体予想が付く。
なぜなら……僕は彼の人生を滅茶苦茶にした張本人なんだから。
「残っている携帯ショップをすぐに洗い出せ! 片っ端から向かう!」
『分かった! まず君から近い場所は……』
ラファエルから伝えられた携帯ショップに片っ端から向かうが、着いたと思えば、別の携帯ショップを襲っていたり、既に堀部イトナが去った後だったりと、すれ違ってばかりだ。
「チッ……!!」
流石にこんな広いと、移動時間も含め効率が悪い。
せめて発信機を落としてくれなければこんなことには……!
しかし、そんなことを嘆いても状況は変わらない。
一つ一つ見ていくしかないのだ。
「……ここも去った後か」
次に訪れた場所は、近くに工事現場がある携帯ショップだ。
……いないなら次の場所だ。
騒ぎを聞きつけてテレビ局も者が集まる前に、ここを去らねばならない。
そう思って建物の屋根に飛び移ろうとした時だ。
「!?」
突如発生した煙。
視界が悪くなったため、咄嗟に項にあるぶつで辺りを薙いだ。
「っ、これ……!」
微かに走った痛みに、この煙がただの煙ではないことに気づく。
だが、そんなことは関係ない。
ここでこの煙が発生したということは、ターゲット達がいるということ。
そして……
「シロ……!」
自称堀部イトナの保護者であり、僕が探していた人物。
視界の煙が晴れると、白い衣装を身に纏った人物がそこにいた。
堀部イトナはネットに囚われており、恐らくあれも……。
「っ!」
手放しても尚、最後まで使えるのなら駒として扱う。
……僕が見ていた腐っている人間より、更に腐っている……!
あの人を選んだ理由だって予想出来る。都合が良かったからだ!
「待て、シロ!!」
車で去ろうとするシロを追おうと踏み出した時。
「待ちなさい、苗字さん!」
僕の肩に置かれた黄色い触手。
振り返ればそこには所々溶けているターゲットと、5人がいた。
「離してくれ、ターゲット! 僕はあの男を追わなくちゃいけないんだ!」
「私が行きます。あなたは此処に……」
「それは聞けない話だ。僕はあの男に用があるんだ……個人的な用事が!!」
僕を呼ぶターゲットの声を無視して走り出す。
その行き先は、シロが去った方向だ。
こんなチャンス、逃してたまるか……!
やっと分かったんだ、あの男の正体が。
「お前の心臓を抉り取る時だ……柳沢!!」
***
「苗字さん、行っちゃったね……」
「どうしよう、殺せんせー?」
「私が追います。そして、イトナ君を助けに行きます!!」
そう言って殺せんせーは飛んでいった。
名前の姿も見えない。
この煙の中、シロを追ったんだろう。
あんなに身体が溶けているなんて、おそらくは……
「俺らを庇って回避反応が遅れたんだ」
「そんな……!」
「シロ野郎、とことん駒にしてくれやがって……!」
ここで突っ立っている訳にはいかない。
こっちも殺せんせーの後を追わなければ。
「おわっ!?」
「大丈夫、渚!?」
「う、うん。ちょっと滑っただけ」
「確かにこの辺り滑るな……」
「あ、殺せんせーの触手が溶けてたから、それかな」
渚君はその場に屈んで、地面に指先を着けた。
その指には確かに粘着物が付着していた。
「これ……」
「どうした?」
「……黒だ」
渚君の指先をよく見れば、そこに付着していたのは黄色ではなく、黒だったのだ。
殺せんせーの皮膚は黄色だ。感情によって皮膚が変化するが、黒に変色していなかった。
それに、辺りを見れば黄色の粘着物が散乱している。
もしかして、イトナ君の……?いや、あの状態の触手では考えにくい。
じゃあ、この場にいる誰かが……いや、ちょっと待って。
「……そんなはずないよね」
先程までいた人物。
……今まででも何度か思った事がある。
どこか彼女には常人とは思えない所があったから。
2021/11/28
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