堀部糸成の時間
僕が向かうのは、かれがいる場所。
彼は知らないだろうけど、実はあるものを着けていた。
そのあるものとは___
「!」
視界に広がったのは、何かが起こったという後と。
「苗字さん……?」
「名前……」
どこか疲れた様子のターゲットと、渚、カエデ、カルマ、優月、寺坂だった。
「君たち……どうしてここにいる?」
「それはこっちの台詞だよ。放課後、急用ができたって飛び出していったのは苗字さんだよ……って。もしかして」
ま、ここで何かあったか見ているのなら、僕がここにきた意味を分かってしまうか。
「急用。その急用って……イトナ君のこと?」
「……そうだ。だから僕はここへ来た」
間違ってはいない。
なんせあの男は堀部イトナをよく連れて歩いていた。それはつまり、イコールであの男もいる、ということになる。
なのに、探していた人物……堀部糸成が見当たらない。
「堀部イトナはどこだ」
「……イトナ君はここにはいません」
「そう」
なぜいない?
確かにラファエルはここにいると……ん?
「あ、それは……」
「……そういうことか」
暗くて見えづらいが、四角の跡の近くに落ちていた小さな物体。
……落としたのか。道理でここから動かないわけだ。
僕は電源を落とすとポケットにしまう。
「今のはなんですか?」
「……発信機だ」
そう、僕は堀部イトナに発信機を着けていたのだ。
そのことに本人は一つも気づいていなかったけれど、口だけの保護者であったあの男はその存在に気づいていた。
だから偶に電波妨害を使ってこちらの邪魔をしてきたんだよね。
「なぜ君はイトナ君を探すのです?」
「……そんなこと、話す必要があるかい?」
「ええ、先生は苗字さんがイトナ君を探す理由を知りたいのです」
「話す必要はない。……話した所で、何の意味もないからな」
そう。
なんの理由もないのだ。
話した所で、僕の罪は変わらない。
そして、僕があの男を殺す理由も変わらない。
「! 待ちなさい、苗字さん!」
「これ以上お喋りしている暇はないんだ。一刻も早く彼を見つけ出さなければならない」
止めるターゲットの声を無視しながら、僕は暗い街に飛び込んだ。
ここに堀部イトナがいないのは分かった。
そして……なぜターゲットがボロボロだったのかも、あの場所が少し散らかっていたのも分かった。
だってここに来る前に眩しい光が見えたんだ。
あの光はターゲットがリゾートで見せたやつだ。堀部イトナがその場にいたと言う事は、同然あの男もいた。
それはつまり……暗殺をしていた、ということだ。
そして、ターゲットが殺されていないとなると……堀部イトナは見限られたってことだ。
では、見限られた堀部糸成はどうなる?
「……このままだと、あの子は……」
触手に殺される……!
2021/11/28
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