竹林の時間
「苗字さんはいるか?」
小休憩時間
僕は持参したPCを使用していると、烏間殿が教室のドアを開けた。
名を呼ばれたのでPCをスリープ状態にして机の上に置き、烏間殿の元へ向かった。
「ここに。何でしょう?」
「少し話したいことがあってな。今大丈夫か?」
「構いませんよ」
烏間殿に付いていくこと数秒。
職員室に案内され何を言われると思えば……
「火薬を使えるか……ですか?」
「ああ。今日の体育から火薬を取り扱おうと考えている。それで火薬使用に当たって生徒から責任者を一人決めようと思っている」
「……まさか、その責任者に私を推したいとでも?」
「その通りだ」
ちょ、ちょっと待ってくれ!
「その話に頷いてあげたいところですが、生憎私は火薬はあまり使わない主義でして」
「そうなのか?」
「はい。知識もそこまで豊富ではなくて……使った事があるのも、閃光弾や煙幕だけでして。責任者としては不十分です」
「なるほど……」
どうやら烏間殿はどうしてもこの火薬を暗殺に組み込みたいらしい。
そのためには火薬の取り扱いを誰か一人に完璧に覚えて貰う必要があるそうだ。
「……あ、そうだ。その火薬取り扱いの責任者に適任な人がいますよ」
「言っておくが、生徒達に覚えて貰うものだぞ?」
「分かっていますよ」
僕はその適任者に会うべく職員室を、E組校舎を後にした。
……さて、そろそろ此処へ来ても可笑しくないはずだけどね〜。
「……おっ。来た来た」
木にもたれかかって待っていれば、そこに現れたのは……
「……苗字さん」
「やあ。……おかえり、竹林」
自分の意思でA組に編入したが、自分の意思で再びE組に落ちに行った人物…竹林だ。
「! ……ただいま」
そう微笑んだ竹林は先程の全校集会で見せた表情と同じだった。
「いいのかい?自ら道を険しいものにしたみたいだけど」
「いいんだ。……僕にはE組が合っている」
「……そうかい」
前から思っていたんだが、竹林は勿体ないと思う人間なんだよな。
顔は整っているのに、髪型と眼鏡がその顔立ちを台無しにしている。これを機にちょっと弄ってみようかな、竹林の顔。
「ところで自称出来損ない君。君に適任な役があるんだけど……興味はあるかい?」
「僕に適任……ね。興味があるな」
その言葉に乗ってきた竹林に、その内容を簡単に説明する。
「でも、僕より君の方が適任なんじゃないのかい?」
「残念ながら僕はあまり派手な事は嫌いでね。だって音大きくて目立つじゃん」
「なるほど……」
「実は烏間殿にも同じような事を言われたんだよね。頼ってくれるのは嬉しいんだけど、残念ながらこればっかりは応えられそうにない」
それに、先程職員室で見たんだけど…烏間殿の机に分厚い本が積み上がっていた。恐らくあの本の内容を全て暗記しろとでも言うのだろう。
「君は暗記は得意かい?」
「……最近自分に合った暗記方法が見つかったんだ」
「それは良かった。ならその話、受けてみるかい?」
「勿論。……その代わり」
「その代わり?」
竹林の言葉に首を傾げる。
……眼鏡が反射していて表情が読めない。一体竹林は何を考えているんだ?
「君にしか出来ないお願いを叶えて欲しい」
「……僕にしかできない?」
「ああ。……この話を受ける代わりに、僕のお願いを叶えるというのはどうだ?」
「……では先に内容を教えて貰おうか?」
……僕と竹林の間をそよ風が通り過ぎていった。
2021/04/24
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