竹林の時間
竹林の帰路を知っている人物がいた為、彼の通る場所で待ち伏せして数分。
「……ふわあああっ」
「眠いの?」
「ああ。ちょっと忙しくてな……」
隣にいたカルマの言葉に適当に返し、欠伸をして出てきた涙を拭く。
もう帰って良いかな……そう思っていた時だ。
「おい竹林!!」
誰かが竹林の名を呼んだ。と言う事は、そこに竹林が現れたということだ。……なんだ、まだ帰宅してなかったのか。
「……」
自分の視界からも竹林がいることを確認できた。
……さて、彼が何を思ってA組へと編入したのか聞いてやるとしよう。
***
「説明してくれないか?なんで一言も相談がないんだ」
「何か事情があるんですよね?」
愛美によると、竹林はあのリゾートでウイルスに感染した生徒達を率先して看病していたらしい。
彼奴の普段の行動と言えば、何かとメイド絡みが多かった気がするが……まあ楽しそうにしていた、という愛美の発言は僕から見ても間違ってなかったと思う。
「賞金100億。やりようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ? 分け前いらないんだ竹林? 無欲だね〜」
へぇ、その話は知らなかったな。
カルマから伝えられた事実にそう思っていた時だ。
「……精々10億。僕単独で100億ゲットは絶対無理だ。上手い事集団で殺す手伝いは出来たとして、僕の力で担える役割じゃ分け前は10億が良い所だね」
やっと口を開いたと思えば、竹林はそう口にした。
竹林の家庭は代々病院を経営しているらしく、彼の上の兄達は有名な大学に通う人間だという。たしか、東なんとかって言ってた気がする。だって大学なんて興味ないし。
っと、話はそこじゃない。竹林の両親にとっては10億という額は容易に稼げる額だそうだ。
「”出来て当たり前”の家。出来ない僕は家族として扱われない。僕が10億手にしたとして、家族が僕を認めるなんてあり得ないね」
……出来て当たり前、か。
「『良かったな。家1番の出来損ないがラッキーで人生救われて』……そう言われて終わりさ」
彼の気持ちは理解出来た。
……何故なら僕も、似た様な人生を歩んできたからだ。
『これくら出来て貰わなくては、××の名はあげられないね』
あの人に認められるように必死に努力して、頑張って……それでも、最後まで認めて貰えた言葉はかけて貰えなかった。
……今の僕は、『頑張った』と褒め言葉を掛けて貰いたいが為に禁忌を犯した憐れな人間だ。
「やっと親に成績の報告ができたよ……E組から抜けられる事を」
褒め言葉を貰えることがどれだけ嬉しいのか。……まさか、一般人にも同じような事を思う人がいたとは思わなかったよ。
「その一言を貰う為にどれほど血を吐く思いで勉強したか……!!」
竹林の表情も合わさって、その言葉にどれほどの重みがあるのか理解しやすかった。
「僕にとっては地球の終わりよりも100億よりも……家族に認められる方が大事なんだ」
竹林はこちらに背を向けた。
その行動が、決別の意を表しているように見えた。
「……裏切りも恩知らずも分かっている。君達の暗殺が上手くいくことを祈ってるよ」
「待ってよ竹林君!!」
そのまま前へと去って行く竹林を渚が呼び止めようと動いたが、誰かが彼の行動を止めた。……その人物は有希子だった。
「やめてあげて?渚君。親の鎖ってすごく痛い場所に巻き付いてきて離れないの……。だから、無理に引っ張るのは止めてあげて?」
親の鎖……か。
『この悪魔め……!!』
『一族の恥よ!』
……その”鎖”とやらは僕にも巻き付いていそうだな。
『ひぃ……許してくれ!!』
『私達が悪かったわ!だから、どうか命だけは……!!』
あの時の彼奴らの顔と言ったら……自分の死を悟った瞬間媚びを売りやがって。
……あぁ、いつ思い出しても……
「……本当、笑える」
「? 名前、何か言った?」
「いいや。……ちょっと面白い事を思い出してしまっただけさ」
帰る、と言い放ち僕は彼らの話を抜け、家路を歩み始めた。
2021/04/24
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