竹林の時間



結局僕はE組達と共に帰宅することになった。体調が治らなかったわけではなく、一部の子達が僕に縋り付いてきて……


『お願い一緒に帰ろおおおおよおおおお』

『おい……暑苦しいんだけど』

『名前ちゃああああん』

『だから暑苦しいって言ってるだろ!?』

『名前ええええ』

『君はいちいち距離が近い!!』


という風に叫ばれたのだ。
うるさいし暑いしで結局了承してやる事にしたのだ。お陰で荷物を取りに一度ホテルに戻ってまた戻る作業を朝っぱらからする事に……。僕一応病み上がりなんだけど!?



と言ううるっさい帰り道を乗り越えて暫く時間が経った。


同じ日に帰ったお陰でターゲットの家庭訪問は無しになった為、その日のうちに相棒…ラファエルに身体の具合を診て貰う事ができた。

何故ターゲットが家庭訪問するとか言っていたのかというと、どうやら僕がきちんと家にいるかを確認したかったかららしい。どこまで舐められているんだろうか僕は。


「そういえばラファエル。あの子の居場所、分かったか?」

「少し前にいた場所なら分かったんだけど……やっぱり機密事項だから、しっかり国が守ってくれてるみたいで分かんないや」


現在、僕が借りているマンション内。
今日は夏休み最後という日なのだが、僕は依頼が無くとも忙しいのだ。色々とやることが多くてね。
今日は別の住居にいるラファエルが部屋にいる。


「はぁ……きっと向こうは、僕がやろうとしている事は既に分かってるんだろうな」

「でも、ナマエとあの子は直接的な関わりはないよね?君は関係ない人はとことん無視してきた。見て見ぬフリをした。なのにどうしてを助けようとするの?」


ラファエルの言う通り、僕は今まででもこのような状況は何度も見てきた。
殺したターゲットが父親で、その子共は父親の突然の死に泣き叫び、妻は静かに涙を流す……いくら殺されるほどに悪に落ちようとも、家族の前では綺麗な人間でいた人物がいるのも分かっている。

それでも、殺し屋を雇われるほどに狙われてしまった以上、逃げる手段はない。
だからあの時も同じように見て見ぬフリをしたというのに……こんな形で返ってくるなんて思わないじゃないか。


「ラファエル。助けようとしているんじゃない……これは”責任”だ」

「責任……?」


そう。
これは責任なんだ。

あの子の人生を壊してしまったのは僕だ。家族を失わざるを得ない状況になり、捨てた親に怒り、絶望し……そしてその感情を利用されてしまった。
だから、あの子を苦しめる要因に僕は間違いなく入っているんだ。

あの子に対する待遇については後々考えるとして、まずはあの”かぶりもの”をどうにかしなくては……。


「それにしても、なんでカーテン閉めてるの?偶には日光を浴びないと身体に良くないよ?」

「お前に言われたくない」

「僕は適度に運動もして散歩もしてるから、至って健康ですー」


ラファエルお前、意外と健康的なんだな……。少しだけ見直したぞ……ってそういう話をしたいわけじゃない。
いつ何処で誰が見ているか分からないんだ。カーテンを開ける訳にはいかない。


「……ん?」


ピンポーン、とチャイムが鳴り響く。
あれ、何か荷物が来る日だったっけ……いや、そもそも荷物なんて頼んだ覚えはない。
そんなことを思いながらインターフォンのボタンを押す。


「はい」

『苗字さん!家にいたんですね!!カーテンが閉まっていて不在かと思ってました!』


……なんでターゲットが此処に?


「……何しに来たの、ターゲット」

『実は今日の夜、夏祭りがあるんです!!貴女が来ないとカルマ君が行かないって言ってて!!!』

「いや知らないけど」

『お願いします苗字さん!!夏祭り行きましょ!!』


夏祭り、か。
そんなもの言った事ないんだけど、楽しいのかな。


『イリーナ先生も来ますよ!!』

「別にイリーナがいるからって行くって決めないけど」


そうターゲットに返答した瞬間、机の上に置いていた携帯がバイブ音を鳴らす。気を利かせてくれたラファエルが携帯を持ってきてくれた。
画面を見ると表示されていたのはイリーナの名前。……とりあえず出るか。


「なんだ」

『ねぇナマエ!夏祭りってもの行ってみない?私ナマエと一緒に行きたいわ!』


なんてタイミングの良い……ま、久しぶりに再会した友に付き合ってあげますか。


「分かった。で?何時に迎えに来てくれるんだい?」

『夕方には迎えに来るわ』

「はーい」


と言うわけで僕はターゲットに夏祭りに行くことを伝え、会話を終える。
……はぁ。


「夏祭りか〜。日本の夏祭りはどんなものなのか気になるな〜」

「お前も来るか?」

「いいや。僕は君が学生のフリを楽にできるようにサポートするのが役目。ナマエは存分に学生という役割を真っ当するんだ。君のやってた事は僕が引き受けるからさ」


僕が頼もうとしたことを先に気づき、それを口にする……。良く出来た相棒だよ、全く。


「じゃあもうひとつ、仕事を増やしてやろう」

「人使い荒いなぁ。ま、それが僕の役割だからね。引き受けよう」

「時間まではまだある。それまで僕もやるさ……これは僕がやらなくてはならない事なんだから」


さて、イリーナが迎えに来るまで働きますか!





2021/04/05


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